第12話 黒い箱をどうする?
暗がりが薄くなり何度も夢の縁を彷徨って深く眠ったと思ったらスマホの着信で目が覚めた。
太陽はとっくに朝日ではなくなり、東北の遅い春を温めていた。
「もしもし、ユキオくん?まだ寝てた?ゴメンね、今日、講義が午前中だけだから買い物とか付き合うけど」
寝ぼけたまま意識を整理して、大学に通うナノハさんからのありがたい申し出を喜んで受ける事にした。
子供のころから何度か来た事があるといっても所詮はお客さんのようなもの、この街に住む事になるとは思ってなかったのだ。
地理的な事やどこに何があるかも大まかな記憶しかない。
僕はさっさと着替えを済ませようと、ダンボールに占領された部屋で今日のファッションを選ぶが、選ぶほど衣装もちではないので、結局いつもの感じに落ち着く。
さっきから僕の視界の隅には黒い箱が映っている。
とりあえず無視を決め込むが昨夜のニュースが頭から離れない、突然現れた黒い箱を持った女の子の事が気にかかりため息をついた。
ここと関係していたら?なんて思い、この箱がここに有るのはまずいような気がしてきた。
僕は見ないようにしていた箱に対して斜に構えると普段よりかなり細くした目で見据える。
しばらく見つめながらコイツの処遇について思いをめぐらせた。
①とりあえずほっとく。
②粗大ゴミとして捨てる。
③河原に埋める。
④山へ不法投棄……
ダメダメ③、④は明確な法律違反、しかし①も②もピンとこない……
結局何も対策をおもいつかないまま着替えを済ませ段ボールを積んだ部屋から出ようとした。
僕の視界150度ギリギリで緑色の光が見える。
僕の意識はすぐに箱に向けられた。
箱の上面の一部がグリーンに点滅を始めたのを確認すると、僕は困惑して箱の前に立ちそのまましゃがみこんで点滅の意味を考えた。
そして昨日と同じように色の違う部分をタッチしようと手を伸ばす。
「サワラナイデ!」
体がビクリと反応した。
部屋の中の空気が一瞬震えて僕の耳の鼓膜を「サワラナイデ」と反応させたのか?
「だれかいるのか?」
話しかける様に声を出した。
部屋の空気がもう一度だけ振動してテレビのノイズみたいに聞こえたが声ではない音がした。
僕は天井や壁を注意深く見回したが目に映るのは何の変哲もないただの部屋でしかない。
それでも僕は自分の中で、ある種の漠然とした確証は得たのだ。
ここには誰かいる。
そして中心にはこの箱があり、何かを伝えようとしているのだ。
こんなありえない状況なのになぜか不思議なくらい怖くなかった。
昼間の太陽光のせいだろうか?やけに日当たりのいいこの物件のせいか?
僕は点滅に答えるのはやめて立ち上がった。
もう少しだけ様子を見ようと思う。
この件に関わってしまう事への怖さより興味が上回ったのだ。
ナノハさんが車で迎えに来たのは間もなくだった。
おじさんのミニバンで家まで来てくれた。
「すいません、用事につき合わせてしまって、ほんと助かります」
僕は挨拶を済ませ車に乗り込んだ。
「いいの、私も買い物あったから丁度いいよ」
ナノハさんがそう言って走り出すとすぐに、通りに止まっていた車の人と目が合った。
なんだか呆気にとられたような顔をして僕を見たように感じるのは気のせいか?知らない人だし勘違いだろうと思い込んだ。
「ユキオくんお昼まだでしょ、なにかたべていこうよ」
僕もいいですねと言った。
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