第5話 房総半島某所にて、三崎玲子の思い
文部科学省管轄の独立行政法人、宇宙通信研究開発機構の研究施設、この機関の表向きの活動は実験衛星の管理など、特段目立った活動はしていない。
世間様の冷ややかな見立てでは天下りの温床と思われている。事実だからしょうがない、だが裏のお仕事はきちんと行われている。
ただし仕事の内容は国民が聞いたら即座に炎上対象になる事請け合いだ。
宇宙からの飛行物体、通信の監視、遭遇時の対策が主な業務内容なのだが、そんな事アメリカやロシアに任せておけばよいではないか!国民の税金を無駄にするな!が炎上してしまう根拠になるだろう。
あくまで極秘扱いなので日の目を見ることもない、そう思っていた。
しかし1ヶ月ほど前事態は急変した。
ピンポイントでこの施設に送られる不審な通信が入った。
それは日本政府に対する警告と思えるものだった。
〈地球の日本国政府の皆様こんにちは、これより日本国のとある地域を中心にした地球圏の科学的調査を行います。平和を目的とした活動です。地球人類に害を及ぼすことはありません、妨害およびコンタクト等は受け付けませんのでよろしくお願いします。近隣宇宙活動法科学調査の宣言でした。なお調査の妨害には武力を伴う戦闘の準備がありますのでくれぐれもご注意されたし〉
なんて舐めた通信、しかも流暢な日本語、携帯電話でもないのにこの施設にピンポイントで送ってきたのだ。
一応政府に報告はしたが何の悪戯だと一蹴された。
通信は分析の結果、月よりも遠くから来たものだった。
アメリカとロシアは気づいている様子はない、何故日本なのか。
6年前にも同じような通信があったと聞いたことがある。
もしかしたら日本はその手の調査に最適と思われているのではないか?そんな状態で監視している私はフロア中央の指令ブースでいつにも増して不機嫌だった。
オペレーター諸君は注意深く状況を観察していた。
「三崎主任、また反応を確認、やはり周回軌道と東北地方南部の都市が同時に何らかのエネルギーのやり取りをしています時間は0、57秒」
一日一回、時刻はプラマイ1時間ほどだがやはり何かの定時連絡のようなものなのか?しかもこちらの器械で痕跡を捉えるのがやっと、それ以上追えないでいる。
当り前だが未知の通信みたいなものなのだろう。1ヶ月前から根気よく調べて偶然捉えることができたこの反応、今日が3日目になる。
現状を見ているだけしか出来ないのが口惜しい。
「玲子ちゃん、何だか面白くなってきたね」
後ろで薄く笑いながら静かに話しかけてきたのは、大学の先輩で石川浩太、防衛省の国家安全なんチャラと言う参謀直轄の秘密機関に属していて、何所からかこの話を聞きつけたのか、文部科学省のトップのお墨付きでこの施設に堂々と入りこんできた。
「玲子ちゃん、俺が調査に行ってやろうか?もちろん予算はこちらもちで、悪い話じゃないだろ」
私は振り向きざまに先輩を睨んで鼻を鳴らす。
「石川さん、チャン付けで呼ぶのは止めてください、それとこの件に関しまして、こちらでは何もするなと上からの……」
「だからこちらで動くと言っているんだ。わかんないかな、人の庭先に勝手に入り込んで部屋ん中覗かれる趣味は無いだろ。どんな奴か正体突き止めないとね、のぞきの犯人はほっといたら世の中のためにならんよ」
石川さんが私の言葉を遮って持論を展開した。
どうせ成果が上がったら自分のモノにしてトラブルに会えばこちらに投げる。
昔からこういう男なのだ。
あの時だって……私は顔が熱くなり胸が苦しくなるのを覚え、石川さんから目をそらしモニターを見る。
「私はあなたに命令する立場にないわ、しいて言えばあなたはここには存在しない」
石川さんはサンキューと言ってエネルギーの観測地点を示す地図を持って出て行った。
そんな私を一番年下のオペレーターがチラ見したのを無視しようとして逆に睨んでしまったのを後悔する。
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