第2話 入居日、ガムテープと少年

 入居当日、荷物を運び入れるために近隣宇宙探査用クルーザー、ピナツーを近所の整備された河川敷に降下させた。もちろん遮蔽してあるので見つかる事は無いが、犬と言う生き物に激しく吠えられた。

 AIチヨがうんざりしたため息をついた。

「この生物焼き払っていいのですか?ニーナの許可で実行しますので早く!」

 物騒なAIチヨをなだめ許可申請は却下した。

 荷物を船外に出す作業を開始する。

 荷物と言ってもデータ収集と通信用に持ってきたAIチヨへの中継用端末と服と下着一式だけ、その他の小物はカバンに詰めた。

 中継端末の見た目は黒くて四角い金属の塊だ。後付けタイプで観測基地仕様のフル装備、シンプルにまとめられた見た目と違い非常に重い、物質転送装置とかあればいいのだがそんな技術は私の知る宇宙には存在しないので諦めて持ち上げる。

 ピナツーから降りて軍支給の大きなカバンを背負いAIチヨの用意した服を着て黒い箱を持ち歩き出す。

 特徴的な格好でうろつくと住民が不思議な物、または不審人物でも見るようにこちらに視線を向けてきた。

「何かしらあの黒い箱、なんか骨壺とかじゃない?」

 老いたメスが聞こえるように私を観察している。

 目立つのはよくない。

 仕方なくこの黒くて四角い金属の塊を、果実を売るお店で貰ったダンボールと言う紙で出来た箱に詰めて持ち運ぶ事にした。

 気にせずそのまま持ち歩けばよかったのだが住民が不審者でも見るような視線が気になってLサイズみかんと書かれた段ボール箱にいれたのだ。

 それなのに移動途中で底が抜けそうになって焦りまくる。

 わざわざ箱に詰めたのにこの様だ。

 こんな事なら人目など気にしなければいいのにと思っても後の祭り。

 この街の連中が笑いを堪えながら様子を伺っているだけで手は貸してくれそうも無い、知らない土地での冷遇は少し悲しくなった。

 やはり同じヒューマノイドでも所詮進化の遅れた下等生物、助け合いなどの精神とは程遠く相応の振る舞いをする奴らなのだ。

 私がこの種族に幻滅している、そんな時だった。

 下等生物と思っていた連中の中から人のよさそうな少年が声をかけてきた。

 幼く見える顔立ちからすると私と同じぐらいだろうと思う。

「大丈夫?手伝うよ」

 そう言って優しい笑顔で私を見て箱の底を押さえるように持ち直してくれた。

「うわっ、結構重いね」

 そういって笑う顔をみて私も微笑む。

 私が微笑むなんて任務の重圧から来るストレスだろうか?

 そんな事あるはずが無い……

 私はウッカリその顔を見つめ返してしまった。

 彼の深く黒い瞳に吸い込まれそうになる。

「あ、ありがと」

 部隊では決して出さないような声でお礼を言った後、何か顔全体が熱くなった。

 彼は箱の状態観察をして、これじゃあすぐに底が抜けちゃうなと言うと、解決策を見つけたようにほほ笑んでから「少し待っていてね」と言い残し近くに在った100円ショップと看板に書かれた店で布製ガムテープなる物を買ってくると、見る見るうちに箱を補強してくれた。

「紙製のガムテはダメだよ布製じゃなきゃ」

 彼が何を言っているのかよく分からないが、こんな辺境の地でも見ず知らずの人のために動いてくれる人間がいるのは驚きだった。

 少しだけうれしくなる。

 ここは生物進化シミュレーションモデルNO6。

 レベルは3でやっと化石燃料脱却に着手したところだ。

 つまり遅れている。

 学校で学んだNO6の進化モデル世界の種族は利益を尊び戦争を好む奴らで、攻撃的な物の考え方がネットワークの発達で多様化すると、情報の伝達方式に歪が生まれ、さらに攻撃的になり意見だけは言うが自ら行動しなで誰かに世の中を決められ、最終進化過程で抵抗もせず100年から200年で滅んでゆく……とデータにあった。が、それもあてにはならないと言うことだ。

 実際に来て見るといろいろな奴がいて、どう進化するかまだ不明なのだろうと思った。

 だから私は調査に来たのかと納得してみる。

 彼は送って行くよと申し出てくれたが、基地の場所を知られるわけにもいかないし、現地人とのコミュニケーションもなるべく避けるとするルールに従って遠慮した。

 私は出来るだけかわいく見える笑顔を意識して彼と別れた。

 しばらくして彼を思い出し、ぼんやりと会いたいような気分になり、はっとする。

何故かはわからない、理由を自分に問いかけたが答えは出なかった。

 それにしても……布製ガムテープというアイテムは使える。

 帰る時には100個ぐらい買って行こうと思う。

 いいお土産が見つかった。


 借家という基地に着いて、四角で黒い中継端末、LB4型を箱から取り出すと中から一緒に独立携帯型通信端末のモバイルロボットのトモーフが出てきてのそのそとあたりを観察するように歩き始めた。トモーフはこの部屋以外での活動時にピナツーと直接通信ができる端末で、四足の動物タイプ、地上に降りるときはいつも一緒だがバックに入れるとごそごそと動き回るし、身体装着形態にして腕に巻きつけると悪目立してしまう。

 不動産屋ではカバンの中で動いているので気付かれるんじゃないかと冷や汗が止まらなかった。

 この地域の賃貸物件はペット禁止が多いので誤解されるとやりにくいだろう。

 それで入居日に箱に詰めたら機嫌が悪いみたいだ。

「トモーフ、私は買い物に言ってくるから悪戯しないで待ってなさい」

 トモーフはギロリと此方を見てロボットのくせに大きな欠伸をした。

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