第878話普通の恋愛

 俺は・・・もちろん今までもずっと思っていたことだが、何もやましいことがなくなってから、改めて強く感じることがある。

 それは・・・


「そーくん!軽く走ったりする?こんな自然を走れる機会なんて滅多に無いと思うよ?・・・なんて!そーくんが望めばいつでも良いんだけどね!」


 初音が可愛いということだ。

 今更すぎるが、初音は欠点という欠点が無いというだけでなく、基本的に何をしても大体トップクラスでできる。

 そして、俺は今までその代わりに初音は恋愛面においておかしなところがあると考えていたし、事実今まではそうだったが・・・


「あぁ、そうしよう」


 今はどうだろうか。

 もちろん俺が浮気をした後とか天銀が女子であることを隠していた、みたいなことで色々とされはしたがそれは絶対に俺が悪いことで初音は悪くないし。

 それを除くのであれば最近は本当に稀にしかそういったことが起きていない。

 つまり何が言いたいのかというと。


「やった!疲れたらちゃんと教えてね!」


 今俺は普通の恋愛をしているんじゃないかということだ。

 もちろん学校とかだと初音と結愛が言い争ってたり、あゆのふざけた発言に初音が怒るみたいなことはあるが・・・少なくとも、今この瞬間。

 この瞬間だけは、俺と初音は絶対にどこにでもある、俺の憧れていた普通の恋愛というものをしている。

 走りながらそんなことを考えていると、初音に背中を突かれた。


「どうしたの?そーくん、ぼーっとして」


「あ、いや・・・」


「もう疲れちゃった?だったら遠慮しないで、持ち運び用のハンモックも持ってきてるから!」


「ハンモック!?そんなのまで!?」


 初音は手際良くハンモックを組み立ててみせた。

 ・・・普通の恋愛。


「そーくん!はい!いくらでも休んでいいよ!」


「せっかくハンモックまで組み立ててもらって悪いけど、別に俺は疲れてるわけじゃないんだ」


「そうなの?でも、なんかぼーっとしてたよね?」


「あぁ・・・ちょっと、考え事をな」


「へ〜!何考えてたの〜?」


 初音は興味を持ちながら首を傾けてきた。

 初音は、この二泊三日のキャンプが終わるまで我慢するからとこのキャンプが終わってから俺の方からそういうことをしてきて欲しいと言っていたが。

 今の俺には、初音とそういうことをしない理由がもう───────全く無い。

 今までは初音がおかしいからとその行為自体も避けてきた節はあるが、今は・・・少なくとも今この瞬間だけは違う。

 ・・・それなら。


「・・・初音、ハンモックに寝てくれ」


「え?良いけど・・・」


 初音はよく状況が飲み込めていないといった様子で俺に言われるがままにハンモックに寝転がった。


「何するの?」


 初音は、当然今俺が考えていることを全くわからないだろう、何故なら、今俺がしようとしていることは俺が今まで・・・避けてきたことだからだ。

 だがもう・・・その俺とは、ここでおさらばで良い。


「初音───────しよう」


 俺は初音に一歩近づいて、そう言った。

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