第876話初めての試み

 夜、眠る時。

 初音がまたものすごいことを提案してきた。


「今日は、服着ずに寝ない?どうしてもって言うなら、下着だけはつけても良いからさ」


「・・・は?」


 初音は何を言っているんだろうか。


「な、何を言ってるんだ?確かに人は居ないけど、一応キャンプが許されてる場所でちょっと歩いたらトイレとかもある場所なんだ、もし人が来たらどうするんだ?」


「誰も来ないよ、それに野宿するんじゃなくてテントの中なんだから、私以外誰も見ないよ」


「いや・・・でも」


「そーくんがどう言おうと、下着以外脱ぐのは決定事項だからね!」


 普通に考えて、秋に、それも暖房とかがないテントの中でそんな格好で寝るなんて、どう考えたって寒い。

 ・・・それを初音に直接伝えてみよう。


「もう秋の季節なのに、ほとんど裸で寝るなんて普通に寒いだろ?」


「何言ってるの、ちゃんと暖かい毛布とお布団はかけるに決まってるでしょ」


「そういう問題なのか!?どう考えたって寒いだろ!」


「ちゃんと敷布団もするから大丈夫だよ、それにもし寒かったら抱き合って寝ればいいわけだし、体を密着させてね」


「抱き合っては寝ないにしても・・・」


 それなら寒くはないだろうし、何も問題はないな。

 ・・・絶対に服を着て寝た方が寒くないことだけは確かだが。


「え!?待ってよ!抱き合って寝ないならわざわざ服脱ぐ理由ないじゃん!」


「最初からそれが目的だったのか!」


「うん」


 そんなにあっさり認められてもこっちの方がどう答えればいいのかわからなくなる。


「えーっと・・・別に抱きつきたいだけなら昼間みたいにいくらでも抱きついてくれれば良いんじゃないか?」


「抱き合いながら寝ることに意味があるんだよ!何にもわかってないねそーくんは!」


 初音は顔を逸らして怒ったような態度を取った。

 俺はもうずっと前からの疑問ではあるが、今もまた出てきた疑問なため初音にその疑問を聞いてみることにした。


「初音は・・・なんていうか、恥ずかしいとかって感情がないのか?普通は服を脱いだ格好を見られるとかって多少なりとも恥ずかしいと思うんだ」


「それは、そーくん以外だったら恥ずかしいと思うよ?・・・ううん、そーくん以外だったら恥ずかしいとかじゃなくて殺意になるけど、でもその相手が私が好きなそーくんなら、むしろ嬉しいの」


 初音は本当に嬉しそうな表情をしている。

 ・・・その嬉しそうな表情に応えたいと思うのは、やっぱり俺も初音のことが好きだからだ。


「・・・わかった、そうしよう」


「え!?良いの!?」


「ただ、ズボンだけは勘弁してほしいのと、真正面から抱き合うのは恥ずかしいから、どっちか片方が片方に後ろから抱きつく形にしよう」


 俺なりの提案をしてみた。

 初音は少し嫌そうではあったが、初めての試みだから許してあげるとそれを承諾してくれて、初音から俺に抱きついて今日は眠ることになった。

 ・・・俺は初音の中で大きな葛藤があることなど知らずに、そのまま眠りに落ちた。

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