第873話世界で俺たち二人きり

「そーくん、着いたみたい」


「・・・あぁ」


 ・・・そうだった、キャンプが楽しみで自分でも忘れてたけど俺は車酔いをするんだった。

 俺と初音はタクシーから降りた。


「・・・初音、ちょっとあそこのベンチで休んでも良いか?」


「良いよ〜、ここまで来ちゃったらもうすぐそこだし」


 それは良かった。

 初音は俺よりも先にベンチに座ると、俺に初音の膝の上に頭を置くように促してきた。

 ・・・いつもならかなり恥ずかしくて戸惑ったところだろうが、今は少しでも横になりたいという考えが強かったためありがたく初音の膝の上に頭を置かせてもらって横になった。


「・・・これ迷惑じゃないか?」


「周り見てそーくん、こんな朝にこんなところ誰も居ないよ、昼間でもそうそう居ないんじゃ無いかな?」


 周りを見てみると、大量の木に囲まれていてちょっと横を向くと山なんかもある。

 このベンチはちょうど日陰に設置されている。


「・・・ここってネットとか繋がるのか?」


「う〜ん、ここは多分ギリギリ繋がると思うよ?私たちがキャンプする場所は繋がらないかもだけど」


「そうなのか」


 ネットから遮断された生活・・・これは、心の健康にも良いのかもしれない。

 それから数分休むと、俺は体力をある程度回復した。


「もう大丈夫だ」


 俺は立ち上がると、初音に先導してもらう形で初音に着いていく。

 十分ほど歩くと、もうそこは完全に森林地帯で、周りには木や川しか見えなくなっていた。


「ここでキャンプするのか?」


「うん、人の住んでる建物から遠すぎず近すぎず、もし何かあった時の安全面とかを考えれば、ここくらいがちょうど良いし、ここでも十分キャンプはできるよ」


 確かにこの光景を目にして文句なんて出るはずもない。

 俺は試しにスマホを手に取って適当に何かを検索しようとするも。


「圏外・・・」


 周りからは川で水が流れる音や、風で葉っぱが擦れる音、鳥のさえずりと言った、心地良い音しか入ってこない。

 それ以外は・・・静かだ。


「・・・本当に、この世界で俺たち二人きりになったみたいだ」


「・・・最高だね」


 初音は俺が周りを見ている間に、いつの間にかテントを張っていた。


「一人でテントを立てるなんて・・・すごいな」


「そうかな?・・・ほらほら、テントの中、入ろ?」


「あぁ」


 俺と初音は一緒にテントの中に入る。

 テントの中は程よく日差しがカットされていて、かなり広い。


「・・・そーくん、このキャンプ期間に渡って、私から一つの大事な提案があるの」

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