第872話霧響は大人

「・・・どういうことでしょうか」


 霧響の表情が険しくなった。

 初音に何か言われたくないことを言われたんだろうか。


『気づいてないの?そーくんは霧響ちゃんのことなんて、大人びた妹どころか、背伸びした子供の妹くらいにしか見てないってことに』


「そ、そんなことないです!」


『だったら、三日間くらい我慢できないのかな?それとも、やっぱりが居ないとお化けが怖くて夜も眠れないのかな?』


「・・・わかりました、では私が大人であるということを行動で示してみせます」


 霧響は何やら大層なことを言うと、そのまま電話を切ってスマホを俺に返した。


「霧響・・・?結局、話はどうなったんだ?」


「私は行かないことになりました、いいえ、行きません、頼まれても行きませんからね!私は大人なので、一人で留守番くらい当たり前にできますから!」


 霧響は怒った様子でベランダの方に出て行った。

 ・・・どうして怒っているのかはわからないが、あの霧響をここまで一変させるなんて、流石霧響の姉を名乗っているだけあって、初音は霧響の扱いが上手いらしい。

 ・・・というかどうして本物の兄である俺は霧響のことを全く扱うことができていないんだ、どう考えたっておかしいだろ。

 なんて考えながらも、俺は明日に備えて早いうちにお風呂に入って早いうちに眠ることにした。

 なんだかんだ、俺は明日からのキャンプが楽しみだった。

 そして当日。


「あ〜」


 時間は朝6時、俺にしてはかなり早起きだが、6時にこのマンションの前で集合することになっているため、俺はすぐに部屋を出て玄関に向かう。


「え、霧響・・・?」


 するとそこには何故か霧響の姿があった。


「もう起きてたのか?」


「えぇ、私は大人ですから」


「え?あ、あぁ、すごいな」


「・・・これ、お弁当です、持っていってください」


「あ、ありがとう」


 怒っているような態度とは裏腹に、こんな朝早くからお弁当を作ってくれていたみたいだ。


「・・・もし白雪さんにそのお弁当を食べるなと言われたら、もし霧響のお弁当を食べられないなら今すぐに帰ると伝えてください」


 何が何だかわからないがとにかく霧響からの圧がすごい、ここは素直に従うことにしよう。


「わ、わかった」


「では、気をつけて行ってきてください、私は大人なので家で留守番をしていますが・・・もし?お兄様がどうしても私と居られないのが寂しいというのであれば、私のことを呼んでくださっても構いませんよ?」


「あ、あぁ、そうさせてもらう」


 俺がそう答えると、霧響は満足そうな顔をした。

 ・・・多分そんなことにはならないだろうが、一応頭の片隅には置いておこう。

 俺はエレベーターで下まで降りて、マンションの前に出た。


「あ、そーくん!おはよー!じゃあ行こっか!」


「あぁ」


 もうすでにタクシーを呼んでいるのか、マンションの前にはタクシーが止まっていた。

 こうして、俺と初音の二人きりでの二泊三日キャンプが始まった。

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