第862話天銀は理解不能

「嫌です、どうして僕がそんなことを?」


「え〜、私の着替え見れるなら安いもんだと思いませんか〜?なら」


「思いません」


 そこでは予想通りのやりとりが繰り広げられていた。


「ん〜、そうだ、ズボン脱いでくださいよ!そこにあるべきものがあればちゃんと信じますから!」


「あるべきもの・・・?いえ、とにかく公然の場でズボンを脱ぐことなんてできません」


「じゃあそれこそ男子トイレとかでも良いので!」


「そういった問題ではなく・・・」


 天銀があゆの怒涛の押しに押されてしまっている。

 真面目に語る場であれば天銀もこうはならないのかもしれないが、あゆの言っている言動はおそらく天銀にとってはまさしく理解不能、なんだろう。


「ていうかそーくん、あの女はなんでいきなりあんなことを言い出してるの?意味わからないんだけど」


「さ、さぁ・・・」


「天銀が女なんて、そんなわけないのに、だってもし天銀が女だったとしたら、今まで男だからって許してた諸々のこととかが全部ひっくり返っちゃって収拾がつかなくなっちゃうってことになるもんね?」


「あぁ、そう・・・だな」


 俺はバレた後の未来を想像して軽く絶望しそうになったためあまり想像はしないようにしておいた。

 ・・・それはそれとして、だ。


「あゆ、そろそろ教室に戻ったらどうだ?」


「は〜い」


 俺が諭すと、あゆは思っていたよりも簡単に引き下がりそのままこの教室から出ていった。


「・・・天銀、ちょっと後で話があるんだけど」


「え・・・僕にですか?」


「うん、良いよね?」


「・・・はい」


 天銀は重々しくそれを承諾した。

 ・・・これは止めなければいけない事態かもしれない。


「初音、なんで天銀と?」


「え!?もしかしてそーくん以外の男と2人きりで話すことに嫉妬してくれてたりするの!?そうだよね〜!恋人が他の異性と2人で話すなんて嫉妬しちゃうよね〜!わかるよ〜!」


「そ、そうじゃなくて、いきなりどうしたんだと思っただけだ」


「そーくんが嫉妬してないってことは、やっぱり・・・」


 初音は疑問を持っているような顔つきで俺と天銀のことを交互に見てきた。


「天銀、次の休み時間空けといてね」


「わかりました」


 初音は端的に言い残すと、そろそろ授業が始まるため自分の席へと戻っていった。

 ・・・初音が何を疑っているのかは定かでではないが、少なくとも俺にとって都合の良いものではないだろう。

 というかもし都合の良いものならそれはそれで良いんだが、もし良くないことだった時のために次の休み時間はあの2人の会話を盗み聞きしてみることにしよう。

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