第840話誰と浮気してるのっ?

「え?・・・今、え?」


 初音が口に出した内容が、本当にその元気な声から出ているのかと思ってしまうほどの内容だったため、俺はかなり困惑する。

 今・・・初音はなんて言ったんだ?


「だから、そーくんは誰と浮気してるのっ?」


 何度聞いても声と言っている内容が全く伴っていない。


「・・・な、なんの話だ?」


「へぇ、せっかく私が明るい雰囲気で聞いてあげてるのに誤魔化すんだね、私のこと怒らせたいのかな?」


「ち、違う、そうじゃなくて・・・」


 ・・・どうしてバレてるんだ!?

 この前隠し事をしてることを言ってしまったからなのか?

 確かにあれはあの時だけは許してもらえるといった雰囲気だっただけで今後もずっと許すという感じではなかった。

 ・・・とはいえどうしてがバレてしまっているんだ?


「ど、どうして初音はそう思ったんだ?」


「ここで即座に否定しないのがそのことをもう物語ってるってそーくんは気づいてないの?」


「・・・・・・」


「まぁなんで気づいたのかなんてわざわざ説明するのもあれなんだけど、大好きなそーくんの挙動とか普段の雰囲気とかが変わったらやっぱり気づいちゃうよね〜」


 ・・・初音の両親に会いに行くという話では確かに緊張したが、それよりも今の状況の方がはるかに緊迫感があることは間違いない。

 というか初音は俺が浮気をしていることを承知の上で俺のことを自分の両親に紹介するとかって言ってたのか?


「で、誰と浮気してるの?」


「・・・・・・」


「黙ってたらわからないよそーくん、せっかく私がまだ優しくしてあげようとしてる間に白状しておいた方がそーくんの身のためだと思うよ?」


 ここで俺が取るべき選択肢は・・・当然黙秘。

 浮気をしたからにはその浮気相手である結愛にも紳士的に・・・浮気をしながら使うのもおかしな言葉だが紳士的に接したいからだ。

 だがここで何も言わないと言うのは初音に対して失礼に当たるだろう。

 だから・・・


「・・・確かに、浮気は、してる」


 重い空気感の中、俺は小さな声でそう言う。


「・・・本当にただ感情のままとかじゃなくて、俺たちの未来のことを考えたらそれの方が良いと思ってそうしたんだ」


 年末になったら結愛には恋愛感情を諦めてもらうという条件での浮気、長い目で見た場合に良い結果に繋がることは絶対に間違いない。


「どうしてそれをそーくんだけで勝手に考えて勝手に答え出してるの?俺たちのって言うんだったらどうして私に相談しなかったの?」


「・・・その状況で答えないといけないと感じた」


「・・・は?」


 初音はナチュラルに右手を背中に回した。

 その背中に何があるのかなんてもはや考えるまでもないが考えたくもない。


「・・・じゃあ浮気することがどう私たちの未来に良いことをもたらしてくれるのか教えてよ、納得したらちょっとのお仕置きで許してあげる」


 当たり前だがそれでもちょっとのお仕置きはあるらしい。


「なんていうか、大きな喧騒の火種になることがこれによって解決できるんだ」


「・・・そう、でもそっか、欲情しちゃってとかじゃなかったんだね、もしそうだったとしたら要らないもの切除しようと思ってたけど」


 怖すぎることを言うのはやめてほしい。


「あ、もちろん麻酔なんて無しで」


 さらに怖いことを想像させないでほしい。


「私のことを思ってだったんだね、なら許して───────」


 多少のわだかまりがあってしまうのは仕方のないことだが、どうやら初音も少しはわかってくれたらしい。

 ・・・だが、ここで初音に許されたからって、自分が悪いことをしているということだけは自覚しておかないといけない。


「あげるわけないよね」

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