第838話恋愛とは

「何してるの?そーくん、作戦内容忘れたの?」


「も、もちろん覚えてるって、だから俺は初音に言われた通り最低な行為をした・・・つもりだったんだが」


 誤算があるとすれば、というか正直誤算しかないが、俺が最低だと思っていたことが霧響にとっては一切最低な行為ではなくむしろ喜ばしいことだったというらしい。


「はぁ、本当ダメダメだね、そーくんに対して好きって感情を表向きに出してるのにそんなことされて最低な行為なんて思える訳ないじゃん、むしろ答えてくれたのかなって思っても無理ないよ?ていうかそれ私にしてよ」


「はい、なので今こうして私とお兄様はベッドで勤しもうとしています」


「いや何をだ!」


「口に出して言わないといけませんか?」


「そういうことじゃなくて・・・」


 おそらくはまだ純情だった頃の幼稚園児くらいの時の霧響を少しだけでも良いから返してほしい。


「そういうことだから霧響ちゃん、そーくんのこと許してあげてくれない?」


「・・・察するに、私の理想の人がお兄様なのでそのお兄様の評価を下げ他の方に理想を向けようとしたのでしょうね」


 察しが良すぎるにも程がある。

 それから霧響は少しの間隔を開けて話を再開した。


「・・・お兄様には先ほどもお伝えしましたが、どのような理由であろうと行為だけを見れば私はお兄様に大事な場所を触られました」


「ねぇ霧響ちゃん、そーくん相手ならそれでも押し通せるけど私が居るからそうはさせないよ?触られたくらい正直どうともないよね?」


「・・・お兄様は「初音より触り心地が良いな」と言いながら触っていたような気がします」


「そーくんどういうことか説明してくれる?」


「え、え!?そんなこと言ってない!霧響の嘘だ!だからポケットナイフを仕舞ってくれ!」


 それはそれとして本当にどうしていつも刃物を持ち歩いているんだ。


「き、霧響!どういうつもりだ!」


「お兄様が責任を取ってくれないからこうなるんです」


 ・・・数分前の自分を多少の暴行を行ってでも止めたいところだ、本当にどうしてあんなことをしてしまったんだ。

 嫌われる覚悟でやったことが逆に好かれてしまいこんな風に責任問題になるなんてわかっていれば・・・


「・・・霧響、世界を見てみたらきっと俺なんかに執着する理由はないんだ」


「お兄様がお兄様である以上は執着する理由など他には要りません・・・というのが私の考えですが、それが違うというのであればと先ほども話し合いました、お兄様の好きなところをあげたりそれに類似する方が居るのかどうかなども、ですがそんな方は居ないんですよ」


「・・・霧響ちゃん」


 しばらく黙っていた初音だが、霧響に何か伝えたいことがあるようだ。


「恋愛っていうのは、一方的なものだと成立しないの、結婚とかをしたいって思うならなおさらね」


 霧響に新たな価値観に気づかせるためにそう、ただ静かに言った。


「・・・・・・」


 当たり前のように聞こえるが、確かに今の霧響には抜け落ちてしまっている部分なのかもしれない。


「それは、白雪さんが言えたことですか?」


「どういうこと?私とそーくんは相思相愛だから関係ないと思うよ?」


「監禁したりするのが普通ですか?」


「まぁそれも愛の一つだよね」


 そこだけに関しては絶対に考えを改めて欲しい。


「・・・もう少し考える時間をいただきます」


 霧響はそう静かにいうと、この部屋を後にした。


「霧響ちゃんにも困ったもんだね〜」


「あぁ・・・ん?」


 俺のベッドの上にあったはずの枕がない。


「霧響〜!」


 考えると言っていたが、しれっと俺の枕を持って行った霧響を追いかけたがこの家は広く、隠れようと思ったら見つからないことなんて簡単。

 結局霧響は見つからず、自分の枕を諦めることにした。

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