第833話霧響からの相談

「お兄様、部屋の中から結愛さんの匂いが強くしますが、何かあったんでしょうか?」


 部屋の中に入っただけで数時間前に結愛がこの部屋に居たことを当てられるのはもはや軽く恐怖だ。


「別に何もない、ちょっと遊んでただけだ」


「遊び・・・ですか、女性と」


「そんな変な解釈をしないでくれ」


 俺が判断を誤っていればおそらく霧響が今考えているんだろうことになっていた可能性は大いにあるが。


「・・・それはそれとしてお兄様、少しご相談があります」


「なんだ・・・?」


 俺の助けなんてほとんど必要無さそうな霧響から俺に相談というのは珍しい、何か助けになれるのかもしれない。


「以前お兄様が異性としての愛情は無い代わりに家族愛なら下さるということを私に話してくださったと思います」


「あぁ、言った」


 胸に響いているのか少し心配だったが少なくとも話の内容自体は覚えてくれているらしい。


「その件で、まだ完全に受け入れ切れたわけでは無いのですが、お兄様が本当に家族愛を極限まで下さるのであればと少し考え始めたのです」


「おお・・・!」


 なんだその俺にとって朗報すぎる報告は。

 妹がようやく家族としての道を歩もうとしてくれている、兄としてこれほどに嬉しいことはない。


「ですが、その先で大きな難題に当たりました」


「難題・・・?」


「私の将来についてです」


 将来・・・霧響が一体何をどう考えれば将来を不安に思えるんだ?正直能力値だけでいうのであれば普通に嫉妬してしまうくらいには将来の不安なんていうのとは無縁に思えるが。


「お兄様と将来結婚することを諦めるということは、言い換えれば将来私が独り身で無い限りはお兄様以外の方と結婚し、いずれは子を作るということです」


「ま、まぁ・・・そう、だな」


 思った以上に生々しい話だが霧響の声のトーンは至って真面目、ここは俺も取り乱さないようにしよう。


「ですが、正直言って私はお兄様以外の男性に嫌悪感を感じています」


「・・・どうしてだ?」


けがらわしいからです」


「え・・・?」


 我が妹ながらにしてなんてことを言うんだ。


「正直、お兄様以外の方と世帯を持つと言うだけで吐き気がするのに、お兄様以外の方と子を作るなんて命が持つかすら危ういです」


「それは・・・今、まだ霧響は俺以外の男性っていうのをほとんど知らないからそう感じるだけで、知ってみると案外そうじゃないかもしれない」


「いえ、そのような確信があるんです・・・なので、どうすれば良いかを教えていただきたく、その答えが明確で無いのであれば、やはり私はお兄様への気持ちを諦めることができません」


 これは・・・確かに難題だ。

 ここで俺が下手なことを言えば霧響はまた俺に異性としての気持ちをぶつけてくるらしい・・・何か、解決策を出さないといけない。

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