第824話小姫さんの振り方

「・・・あれ」


 学校内を歩いていると、廊下の人が少ない一番奥の非常階段へと続くドアの前で小姫さんの姿が見えた。


「・・・ん」


 と思ったが、どうやら一人では無いらしく男子生徒と一緒のようだ。

 小姫さんと一緒に居るということは小姫さんの同級生だろうか。

 ・・・あんまり良くないことだとはわかっているが、小姫さんが同級生とどんな会話をしているのかは少し興味があったため、覗いて見ることにしよう。


「僕と付き合ってください!」


「・・・ぇ?」


 抑えていた声が少し漏れてしまったが小さかったためおそらくバレてはいないだろう。

 ・・・思いっきり告白の現場じゃないか!

 まずい、覗き見なんてしてしまったら神罰が降るんじゃないんだろうか、だがこの展開は気になってしまう。

 普段男子のことをおそらくどうとも思っていなさそうな小姫さんだが、実は意外な一面があったりするかもしれない。


「無理、もうちょっと自分の顔と性格見直してから出直してきてよ、まぁ私に釣り合うような人間なんてこの世界には限られてるけどね」


「はいぃ」


 ナイフで心臓を刺すが如く鋭い一言・・・本当に恋愛に興味がないんだろうな。

 だが振られた男子生徒は落ち込んではいたもののどこか嬉しそうな表情をしている。

 どういう感情なんだろうか、振られたからせめてもの空元気ということか。

 それなら本当にご冥福を祈る、告白した男子生徒がどんな人なのかは知らないが少なくとも今回ばかりは相手が悪かったとしか評することができない。


「それで、いつまで隠れてるの?」


「・・・え」


 どうやら小姫さんには俺が居ることがバレていたらしく、俺が隠れていた場所の目の前まで来た。


「君って覗き魔なんだね」


「言い方!・・・その、良かったんですか?」


「何が?」


「告白・・・断って」


「はぁ?あんなのと私が釣り合うわけないじゃん、私とろくに話したこともないのに告白とか、どうせ見た目だけしか見てないんでしょ・・・君とは違って」


「え?」


「なんでもない」


 小姫さんは何故か俺から視線を外した。

 ・・・しまった、何か聞いておかないといけないことを聞き逃してしまったんだろうか。


「それにあいつ多分変態だから」


「・・・え?」


「私が振ったのに落ち込むどころかちょっと嬉しそうにもしてたし、本当気持ち悪い、あんなのが居るから社会が腐っていくんだろうね」


 物凄い言いようだが・・・確かに嬉しそうにはしていた気がする、なるほど、あれは変な人だったんだな、なら告白を断ったのも正解かもしれない。


「君も試しに私に告白してみる?」


「いやナイフで刺されたくないですよ・・・」


「まぁまぁ、言うだけ言ってみなって」


「はいはい、小姫さん好きです付き合ってください」


 俺は場の流れで冗談で棒読みで言った。

 どんな罵詈雑言が飛んでくるんだろうか。


「うん、良いよ?」


「・・・え、え!?」


 は、は!?


「冗談だって、キモい、私が君なんかと付き合うわけないじゃん」


「び、びっくりした・・・」


「・・・君さ、そう言えばバイトやめるんだよね?」


「え・・・はい、せっかくだったんですけど初音にバレてしまったので」


「そのまま傀儡で良いの?」


「・・・え?」

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