第823話先輩

「そんな自分のことを大切にも思ってないあゆにそんなこと言われても、変な行動を起こすはずがないだろ?」


「どうして、先輩はいつも・・・」


 あゆは珍しく動揺している様子だった。


「こんなになってるのに、どうして三大欲求の一つを抑えることができるんですか?それが先輩の優しさなんですか?多分こんなになってたら苦しいと思いますけど、その苦しさから解放されたいとは思わないんですか?」


「解放されたいとは思うが、それとあゆを傷つけることは別のことだ」


 ・・・素直な感情で言うとただただ性欲というものが込み上げてくるが、ここでそれを我慢できなければ本能のままに動く動物と変わらない、人間に生まれたからにはしっかりと理性で本能を押さえなければならない。


「・・・本当は出したいくせに、先輩の見栄っ張り」


「・・・・・・」


 あゆは俺のそれから手を離した。


「・・・初音先輩に宣言もしたし先輩にも喝入れられちゃったし、もうちょっと真面目にどうやったら先輩を手に入れられるか、自分のこともちゃんと考慮して考えてみます」


「あぁ」


 あゆはそう言うとトイレの個室のドア鍵を開けた。


「あ、私とはしないにしても、それ収めるのは手伝ってあげましょうか?私がそんなにしちゃったわけだし」


「いや・・・良い」


「・・・どこまでも見栄っ張りなんですから」


 そう言うとあゆは個室から出て行った。

 ・・・危なかった。

 少し踏み外せば本当に危ないことになっていた。

 俺は自分のことを褒め称える。


「さてと・・・」


 今は授業中だったな、どうやって言い訳したものか。

 そんなことを考えてはいたが、あゆに初めて先輩らしいことを言えたような気がして少し誇らしい気持ちになっていた。


「とにかく教室に戻───────」


「そーくーん!」


「・・・ん?」


 初音の声がだんだんと近づいてくる。


「そーくん!ここにいる!?」


「は、初音!?」


「あぁ、なんだお手洗いにいたんだぁ、変に勘ぐっちゃった」


 初音は男子トイレの中に入ってきて、ドアの空いた俺の個室前に来た。

 まずい、俺はすぐさま下着を履きズボンを履いた。


「そーくんも授業に出れないなら私に一言くれても良かったよね?・・・ん、ここで何かあった?」


「いや?別に・・・」


「・・・そう、そーくんもしかしてここで何かしてた?」


「・・・別に変なことはしてない」


「・・・ふ〜ん、まぁいいや、じゃあせっかく2人きりだし、この前のリベンジ、する?」


「ここでするわけないだろ!」


 なんていつもの日常的なやり取りをしながら、俺たちは教室に戻った。

 ・・・あれ?いつからこれが日常的なやり取りになってしまったんだ。

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