第820話あゆは知りたい

「せーんぱい!えっちしま───────」


「ちょっと待て!」


 俺はあゆの口を押さえ、手っ取り早くほとんどの人が使っていないであろうトイレの前に連れて行く。

 ここは教室から遠く、わざわざここを使う必要は無いためまず間違いなく人は来ない。


「え、なんですかぁ?トイレ前に私のこと連れてきちゃったりして・・・もしかして本当に私としてくれるんですかぁ?」


「そうじゃない!学校でそんな変なことを大きな声で言うなって事だ!」


「あ、学校外で言って欲しいって事ですかぁ?」


「違う!」


 あゆは本当にああ言えばこう言うを体現しているな・・・


「え〜、でも学校ではもう私たち恋人なんだし、そのくらい良いじゃ無いですかぁ」


「そのくらいって、どの視点から言ってるんだ・・・」


「処女です」


「ちょっ・・・だから変なこと言うなって!」


「まぁでもそれは先輩だって一緒じゃ無いですかぁ?」


「・・・・・・」


 さて、この問題は本当に延々と俺に纏わりついてくるようだ。

 俺はまだ性行為未経験と言えるのか。

 未経験ではないがしっかりと経験もしていないという、本当になんとも中途半端なところだ。


「・・・え、なんですかその反応」


「え?あ、いや、あゆが急に変なこと言うから───────」


「もしかして、もう私以外の誰かとしたんですか」


「そんなわけない・・・だろ?」


「ですよね、それは高校生のうちはっていう先輩の理念に反しますもんね、だから先輩がまだ高校生なのにそんなことするはずないですよね」


「・・・・・・」


 今までその理念を掲げてきただけに胸が痛い。


「・・・先輩?」


「いや・・・もちろんだ」


「・・・そうですか」


「わ、悪い、そろそろ教室に戻る」


 俺はなんだか気まずくなってしまったため、時間も時間だし教室に戻るためにくるっと振り返り教室の方に進行方向を向けた。

 ・・・が。


「待ってください先輩」


 あゆは俺の肩を握るとかなり強引に俺のことを男子トイレに押し入れた。


「お、おい!ていうかここ男子トイレ───────」


「男子トイレなのでもし私が被害者ヅラすれば先輩が私のこと男子トイレに引きずり込んだように見られちゃいますね、分かったら黙って聞いてください」


 な、何なんだ・・・あゆのいつものおふざけ感が微塵も感じられない、むしろ全てのおふざけ感を取り除いたようだ。

 普通に恐怖を感じてしまう。


「先輩、もうしたんですね」


「な、何を?」


「・・・言わないとわかんないですか?」


 そう言うとあゆは俺のズボンを強引に下ろし、下着を指差しながら言う。


「そこを使ってするようなこと、したんですねって」


「・・・・・・」


 どうしてこんなにも豹変しているのかわからないが、とにかく今言えることは・・・この状況で嘘をついたら間違いなく、俺の何かが終わるということだけだった。

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