第819話兄
「お兄様、耳を掻かせてください」
「お兄様、撫でてください」
「お兄様?膝枕してください」
「お兄様、抱きしめてくださ───────」
「本当に弱みをフル活用するな!」
「はい?」
ああいうのは大抵脅し道具として見せびらかすだけで本当には使わないのがセオリーというものだろう、だが霧響に関してはそんなセオリーなんていうものは一切通用しないようだ。
「婚姻届に無理やり名前を・・・などということをしていないだけありがたいと思っていただきたいです」
「いやハードル高すぎるだろ!」
「・・・では、私のことを抱きしめることもできない、とおっしゃるつもりなんですか?」
「・・・兄としてなら抱きしめることはできなくもない」
それならまぁ・・・シスコン兄ということでまかり通るだろう。
・・・いや全く嬉しくない響きだが。
「嫌です、女性として抱きしめてください」
「霧響、そろそろ諦めてくれ・・・妹として、家族愛として愛情が欲しいっていうんだったらこの際俺だって躊躇いはしない」
妹としてそこまで求めてくるのであれば、それに答えるのが兄だ。
「・・・ではこの際妹としてでも構いません、私と白雪さんとしたことを私にもしてください」
「初音としたこと・・・?」
「おそらくもう白雪さんとは、子作り行為と呼ばれるものを済ませているんじゃないですか?」
つい最近、俺と初音がついにそう呼ばれるものの入り口を少し潜ることはできたということを自覚している。
あの感覚は確かにすごかった・・・が、果たしてあれを初めての体験として記憶に刻んで良いものだろうか。
一度それを納めることに成功しただけ・・・そんなものを初めての体験としては記したくないものだ。
「その表情から察するに、おそらくその行為と呼ばれるものを一応行いはしましたがお兄様が何かしらの要因でしっかりとその行為を終えることはできなかったのでしょう」
そして的確に当てられてしまう、俺の周りの人たちは皆何故か俺の表情を読むことに特化している気がする、どうしただ・・・そんなに俺は分かりやすいんだろうか。
「でしたら!お兄様が私のことを妹とおっしゃるのであれば、私が!お兄様のことをその苦しい記憶から解放させてあげます!」
「いや・・・仮に妹にしろ妹じゃないにしろ、どちみち霧響はまだ中学生だろ?そういう話をするにはまだ早いんじゃないのか?」
「・・・すみません、やめてください、私はやはりお兄様に妹として扱われるのは嫌なんです」
「霧響・・・?」
霧響の声が震えている。
「今までは私だけのお兄様だったのに、どうしてこんなことになってしまったんですか、本当にどうして・・・」
「・・・霧響、もしかして寂しいのか?」
「・・・いえ、私は寂しいわけではないんです、ただいつかは覚悟していたことなのですが、お兄様が私から離れていくのが怖くて」
「・・・それこそ、俺たちは血の繋がった兄妹なんだ、霧響は今までそのことを嫌がっていたが、寂しくなることが無いのが兄妹の利点でもあるんだ」
「ですが、デメリットとしてお兄様と本当の愛を分かち合えないなんて・・・これ以上苦しいものはないです」
「別に、愛って言ったって、形は1つじゃないんだ、恋人っていう愛の形だけに囚われる必要は無い」
これは兄として伝えておかなければならないだろう。
「・・・ではお兄様、最後にお願いがあります」
「なんだ?」
ここまで深く話し合ったんだ、多少難しい願いでも叶えたい。
「兄として、どうか私の大切な思い出である初───────」
「断る」
「なんでですか!最後まで言ってないです!」
「今俺が言ったことをもう一度思い出せ!」
結局俺の言いたかったことは伝わったのか伝わってないのかは分からないが・・・伝わっていると信じよう。
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