第812話天銀の女子力

「最王子くん、少しいいですか?」


「え、あぁ、大丈夫だ」


 体育の時間以外で学校内で天銀から話してくるのは珍しい、何かあったんだろうか。


「今日、放課後お時間をいただけませんか?」


「放課後・・・?」


 男子相手だといえば初音もギリギリ納得・・・はしてくれないにしろ、女子と出かけるよりかはましと妥協してくれるだろう。

 ・・・まぁその天銀も実は女子なんだが。


「別に構わないけど、どうしたんだ?」


「少し興味がある場所があって、そこに一緒に来ていただきたいんです」


 感想・・・?映画か何かだろうか。


「あぁ、分かった」


 とにかく放課後が来ないことにはなんともいえない、俺は昼休みのうちに初音には事情を説明しなんとか理解を得られ、放課後まで大人しく待ち、放課後天銀のところに向かった。


「それで、どこに向かうんだ?」


「・・・まずは洋服店に向かいます」


「洋服店・・・?」


「はい、最王子くんは外で待っていてください」


 洋服店に着くと、俺は天銀に言われた通り外で待っていることにした。

 天銀と洋服店・・・類似性が全く見当たらない。

 しばらく待っていると、天銀が出てき・・・え?


「お、お待たせしました・・・」


「・・・え?」


 出てきたのは、帽子も取り、その銀系統の髪の毛を肩より少し下まで伸びていておそらく胸部に巻いていた晒しを取りその異様な大きさの胸部を開放してなんだかギャルの人が着てそうな服を着た天銀だった。

 ・・・いや、誰だ。


「な、何がどうなってるんだ?」


「パワショルニットワンピというものらしく、本当はこのように派手な服にするつもりではなかったのですが、店員さんに勧められてしまい・・・」


「ぱわしょ・・・?そ、それよりなんで女性ものの服を、ていうか店員さんはどうやって天銀が女子だって気づいたんだ?」


 一緒に生活してた初音たちでさえ気づいていないのに、どうして出会って間もないどころか話すらほとんどしていないような人に気づかれたんだ?


「あ、それは・・・僕が女性ものの服の前を見ていたというのと、先ほどリップクリームというものを唇に塗ってみたからだと思います」


「リップクリーム・・・」


 言われてみれば天銀の唇がいつもより少し鮮やかなような気もする。

 ・・・気づかなかった俺がいけないような気がしてくる。


「そ、それで・・・なんで女性ものの服を?」


「はい、それは今から行くところに関係があるんです」


 本当にどこに行くつもりなんだろうか。


「その前に少しだけ・・・こ、この服変じゃ無いですか?絶対僕には似合ってないと思うんですけどどうですか?」


 天銀は俺にしがみつくようにしながら言う。

 帽子を取っただけでも、天銀の表情がいつもより分かりやはり女の子なんだということをより鮮明に認識する。

 より鮮明に・・・天銀も、しっかりとすれば女子力が恐ろしく高いな。


「って!いつもは晒しを巻いてるから良いが今しがみつかれるのは色々と訳が違うくないか・・・?」


「・・・べ、別に最王子くんなら」


「ん、なんて言った?」


「いえ、なんでも・・・」


 天銀は俺からゆっくりと離れた。

 ・・・ん?

 というか、男装していたから天銀が女子だとはバレなかったが、今の天銀は誰がどこから見ても女子だ。

 こんなところを初音や結愛に見られたら・・・


「・・・は、早く行こう!」


「え、あ、はい!」


 俺は天銀の手を取って道順を聞き、天銀の目指す場所に辿り着いた。

 ・・・が。


「・・・はぁ、はぁ、それで、ここは?」


「ホテルだそうです」


「ホテル・・・?」


「はい、ホテルだと言うのに、何故か男女での行き交いが激しく、普通のホテルは基本1人や家族で宿泊すると思うのですが、どうも怪しくて・・・なので僕が単独で調査をしようと」


「・・・ちょっと待て、それって───────」


「行ってみましょう!」


「え、おい!」


 今度は天銀が俺の手を取り、そのままそのホテルの中に入った。

 が、天銀の話を聞く限り、そのホテルというのは十中八九・・・どうか、この考えが当たらないことを願おう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る