第778話初めてのバイト
その後、小姫さんは今までに無いほど活力を見せた。
俺と小姫さんそれぞれに渡されたマニュアルを同時に読み始めた。
・・・かと思ったら小姫さんはパラパラと次々にページをめくっていく。
「え、さ、小姫さん?」
決められたことが書いてあるだけなのでページ数は少ないが、それでもそんなにパラパラと速読できるような文字数ではない。
俺がようやく1ページ目を読み終えたところで、小姫さんは全てのマニュアルを読み終えたのか、俺に対して勝ち誇った表情をしてバイト先のお姉さんの後を追うようにこの部屋を出た。
「なんなんだ・・・」
まぁいい、これは別に勝負じゃ無いんだ。
焦って失敗をする方が店に迷惑がかかる。
俺は自分のペースでゆっくりとマニュアルを読み進めていく。
30分くらいしてようやくその全てを読み終えることができた。
「やっぱりそこまで難しいのはなかったな」
コーヒーの作り方の手順とかはイマイチ覚えられていないが、それは他の人を頼らせてもらおう。
俺はお姉さんにマニュアルを読み終えたと報告をしに行った。
「あぁ、じゃあ君もあの子・・・ほどじゃなくても良いから、焦らずゆっくりと仕事の感覚覚えていってね」
「は、はい!がんばります!」
優しい・・・世の女性にこんなに優しい人が居るのか。
やはり周りが異様に異常なだけで世界は広い、な。
それにしてもあの子ほどじゃなくても良いってなんだ?
「・・・あ」
俺はその言葉を一瞬で理解した。
その人はコーヒーメーカーを巧みに扱い、それをお客さんのところに持って行き、会計精算も早い。
もし効果音を付けるのであればシュッ、ビュン!といった感じだ。
「さ、小姫さん・・・」
「今来たの?遅、早く仕事してよ」
なんだかいつもならスルーできたが仕事の場となるとその暴言は意味が違ってくる気がする、これはもしかするとパワハラというやつではないのだろうか。
とはいえ初日からでもお金をもらえるんだ、働かないといけないのは事実。
俺は早速今来店したと見えるお客さんのところに足を運ぶ。
「何か注文あったらお願いします!」
よし、マニュアル通りにすれば大丈夫だ。
「ん〜」
お客さんはゆっくりと考えている。
・・・それにしてもこのカフェのお客さんは8割が女性だ、やはりこういうカフェは女性に対しての方が人気があるのだろうか。
まぁ俺だってカフェなんて一人で行ったことないしな。
「クリームソーダアップルティーのトールでお願い」
「は、はい!」
クリームソーダアップルティー・・・?なんだそれ、美味しいのか?
トールっていうのは・・・確かサイズだったな。
俺はそれを手に持っていたメモにメモし、マニュアルに書いてあった通り厨房係の人にそのまま伝えようとしたが・・・
「きゃっ!」
「え?」
お客さんの方を見ると、どうやら水を飲もうとしたがそれを自分の服に溢してしまったらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
早速こんなイレギュラーなことが起きるとは・・・
「う、うん、大丈夫」
この人はおそらく大学生ぐらいで、明らかに俺の方が年下なのが雰囲気だけで分かった、この人もそれに気づいたから特に堅い言葉を使っていない。
「良かったらなんだけど服拭いてくれない?」
「え・・・あ、えぇっと」
服って・・・上半身なんて拭けるわけないだろ!何を考えてるんだ、この人は。
俺があたふためいていると、小姫さんが来てくれた。
「私が拭きます」
そういうと小姫さんはすぐにその人の服を拭き、一礼してから俺のことをカフェの裏、つまりはバックヤードに連れ込んだ。
「え、な、なんですか?」
「君って本当にアレなんだね」
・・・アレ?
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