第777話年上のお姉さん

「おぉ・・・」


 コンビニとかは裏が汚いとか噂で聞いたことはあったが少なくともこのカフェは全くそんなことはなく、裏までしっかりと綺麗だ。

 きっと店長さんがしっかり者なんだろう、とりあえず初バイトがトラウマになるなんてことはなさそうだ。


「今日は初日ということなので、とりあえずはマニュアルに目を通しつつできることがあったらしていただく形でお願いします」


「は、はい!」


 教えてくれる人が優しそうなお姉さんで良かった。

 ・・・この一文だけを切り取って初音に送ったら俺の体の部位の方が切り取られそうだな、絶対に口には出さないようにしよう。


「じゃあ、がんばってね」


 案内してくれたお姉さんは仕事に戻って行った。

 最後は硬い感じではなくバイト先の先輩としてか、はたまた年上の人としての優しさなのかは分からないが、何か温かいものを感じた。


「おぉ・・・」


 カフェの裏の綺麗さだけでなく、人まで優しいと来た。

 本当にこのバイトは初めてに打って付けすぎるな、こんな良いところを俺に勧めてくれた小姫さんはやはり只者ではないのかもしれない。


「あれが年上の人というか先輩、なのか・・・」


 仮に俺が何かを間違えてもカバーしてくれそうな頼りがいがあるな。

 もちろんそういう面では初音や結愛たちだって全く劣っていないが、やはり年上の人というのは頼りがいがあ──────


「は?」


「─────は、はい?」


 俺がこのバイトについて感慨深く浸っていると、小姫さんが明らかに怒りを孕んだ疑問系の言葉を俺に向けてきた。


「今なんて言ったの?」


「え・・・?年上の人は頼りがいがあるな〜って思って」


 なんだ・・・?

 これが初音とかなら「私の前で他の女のこと褒めるなんて良い度胸してるね、今日この初バイトが終わったら別の初めても始めないとね」とか言いそうなのが頭によぎったが小姫さんはそんなのではないはず。


「────って────だし」


「な、なんて言いました?」


 小姫さんの声が極限に小さくなった。


「だからっ!私だって年上で先輩でお姉さんだし!!」


「・・・あ」


 ・・・・・・。


「あ、じゃないし!死ねば?本当に!ねぇ、死ねば?」


「す、すみません・・・」


 確かにそうだった、いや、もちろん小姫さんのことだって年上の人として色々と尊敬している・・・がそれ以前に変わってるところが多すぎて尊敬すべきところが雲隠れしてどうも尊敬しきれないため少なくともなんて感覚にはあまりならない。

 だが今回のバイト探しの件については本当に感謝している。


「・・・・・・」


 小姫さんは少し残念そうにもしている。

 普段あんなに暴言を吐かれていてもこんなに落ち込まれるといつものことを忘れて心苦しくなってしまう。


「なんなの、あいつだって私と多分2つ3つくらいしか変わらないのに・・・」


「あ、あの、小姫さん──────」


「分からせるから」


「・・・え?」


「絶対今日で私の凄さ分からせるから」


 何故かそこで小姫さんのスイッチが入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る