第772話勝ち誇る月愛

「部屋以外の大まかな箇所を見て回ったけれど、変なところは無いようね、少し気になったことを列挙するなら、包丁が一般よりかなり多かったことくらいかしら、料理が好きなの?」


「はい!」


「そう、それは良いことね」


「・・・・・・」


 その包丁が全て料理に使われるのであれば良いがこの家では料理に使われることとほとんど同じぐらいの回数脅しにも使われている。

 もちろんそんなこと月愛に言うことはできないけど。


「記入するわね」


 月愛はプリントを取り出してペンでそれに記入していく。

 先生に渡されたんだろうか。

 ・・・生徒家庭調査書。

 ものすごく難しそうな名前をしているが要は家庭訪問した結果をここにまとめろってことか。

 ・・・これ本当は先生の仕事なんじゃないか?


「おかしかったところ・・・は特にないわね」


 月愛が特になかったと記入する。


「調査対象者に関して・・・」


 調査対象者・・・この場合だと俺になるのか。

 まぁ特に問題も起こしてないし、ここはスルーでいいだろう。


「学校を休んで何をしているのかと思えば家で女遊びをしてい──────」


「ちょっと待て」


 俺は月愛のペンで文字を書く手を止める。


「何かしら」


「何かしらじゃない!何書こうとしてるんだ!」


「何って、事実よ」


「事実じゃない!俺は女遊びなんてしてない!」


「こんなに大人数の女子と同棲しておいてそんなこと言っても説得力がないわ・・・いえ、そうね、あなたは女遊びなんてしてないわね」


 月愛は勢い任せに俺に畳み掛けてくるのかと思いきや、意外にもあっさりと俺のことを信じてくれたようだ。


「あ、あぁ、わかってくれたか」


 なんだかんだ言っても月愛とはライトノベルの話をできる友達だ、その時の言動とか雰囲気で俺がそんなことをする人じゃないことは伝わっているはずだ。


「えぇ、私がどうかしていたわ、最王子くんに女遊びなんてことができる度量も勇気も技量も知識も対応力も無かったわね」


「冷静な顔して何ディスりまくってるんだ!」


「これも事実よ、それとも女遊びしているとここに書いた方がいいのかしら?」


「た、確かに俺の度量でも結城でも技量でも知識でも対応力でも女遊びなんてできない、本当に月愛の言う通りだ」


「最初からそうしていれば良いのよ、ふふっ」


 月愛はどこか嬉しそうだ。

 ・・・屈辱とはまさにこういうときのためにある言葉だ。


「じゃあ、今日はこのくらいで失礼させてもらうわ」


 そう言うと月愛は本当に特に何も言わずに帰っていった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「そーちゃんの知り合いがまとも!?」

「お兄様のお知り合いがまとも!?」


「なんだその失礼すぎる反応は!」


 少しむかついてしまったが、これからまともな人という言葉を警鐘として鳴らすときに月愛という指標ができるようになったのは、何気に大きな収穫だったかもしれない。

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