第762話キスの直後

「いや〜、上手くいってよかったですよ〜」


「あ、あぁ」


 キスした後で「やっぱり私もついていくよ!」って言われた時は焦ったが、そこは事前にあゆに聞いていたもし初音がついてくると言った時の対処法として「待っていてくれ」と真剣な眼差しで言うというのが効いたのか、今回は初音は大人しく言うことを聞いてくれた。


「まぁまさかキスを迫られることになるとは思わなかったが」


「・・・へ?」


 あゆは通学路の途中で足を止める。


「どうした?」


「キス、したんですか?」


「え、ま、まぁ・・・」


 そんな改めて確認されるとこっちが恥ずかしくなってくる。

 ・・・というかそんな改めて確認されるぐらいの温度感じゃなくてちょっと呟いただけなんだが。


「・・・いや?別に良いんですよ?恋人ですもんね〜」


「ん?あ、あぁ」


「でも、さっき、してきたんですよね?キス」


「まぁ・・・」


「それは話が違うくないですかぁ!なんで私と一緒に学校行く直前に白雪先輩とキスしちゃうんですかぁ〜!」


「そ、そうしないとそもそも学校に登校することすらできないような状況だったんだから仕方ないだろ?」


 何をそんなに拗ねてるんだ・・・むしろ今までのあゆだったら「キスしたんですね〜」とかって笑いながら俺のことをいじってきてたと思うんだが。


「あゆ、なんかちょっと変わったか?」


「別に〜?ただちょっと諦めるのをやめただけですよ〜」


「諦める・・・?」


「えぇっ、鈍すぎませんかぁ?流石の私でもちょっと引きますよ?」


 そんなことを言われても、何を諦めるかも言ってないのにわかるわけがない。


「まぁいいや、早く行きましょ〜」


 あゆは話を区切るようにそう言い、俺の手を取った。


「ちょっ」


 いきなり手を握られたため俺はそれに対して抗議しようとするも・・・


「なんですか〜?私の彼氏先輩❤︎」


「くっ・・・」


 本当に、あの時あゆに泣かれてあゆからの告白を承諾しなければ・・・いや、少なくとも今の俺が女子の涙に勝てるわけがないか。

 ・・・って!それじゃダメだ、それじゃいつまでも浮気し続けてしまう。

 強くならないといけない。


「じゃあ私こっちなので」


「あぁ」


 あゆとは学年が違うため、教室がある階層も当然異なる。


「・・・それだけですか?」


「・・・え?」


「彼女と一時的にとは言え別れるんですから、何か寂しいとかそういうできなくても引き止めるような言葉残すのが普通じゃないんですか?」


 え、それが普通なのか・・・?

 普通の恋愛というものをしたことがないため普通がわからないが、それが普通だというのであれば将来のためにもそれはしておこう。


「えっと・・・は、離れるの寂しいな」


 ちょっと棒読みになってしまった・・・


「えっ❤︎先輩っ!私もですっ!」


 ・・・ん?

 全然俺と温度感が違う・・・


「じゃあお別れのキス──────」


「却下だ!」


 俺は危うくキスさせられそうになったため、すぐに自分の教室に向かった。


「・・・私とはしてくれないんですね、先輩」

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