第760話あゆの謀り

 早いことに、もう7月も中旬になった。

 中旬になった・・・はいいが。


「暑い・・・」


 本当に暑い、なんだこの暑さは。

 部屋の中はエアコンをつけているからまだいいが、ちょっと外の景色を見たいなと思ってベランダに出てみたらこの溶けそうなほどの暑さだ。


「暑いですね〜」


「あぁ、そうだな・・・って!いつの間に!?」


 いつの間にか隣にはあゆが居座っていた。


「今ですよ〜」


「そ、そうか」


 音もなく隣に居座られると本当に驚く。

 危うくこのベランダから下に落ちてしまうかと思った。


「はぁ、暑・・・」


 あゆは薄着の服を引っ張ったり戻したりして少しでも涼もうとしている。

 ・・・別に良いが薄着でそんなことをされると目のやり場に困る。


「せんぱぁい、目がえっちですよ〜?」


「い、いや!別に見てない!」


「もう〜、暑いからって性欲出てきすぎですよ〜、大歓迎ですけど❤︎」


 恋人でもないのに性欲が大歓迎されることなんてあってたまるか。


「そうだ先輩、私たちって恋人ですよね?」


「は、は?何、言ってるんだ?」


「えぇ!恋人のこと忘れるなんて酷いじゃないですかぁ〜!ほら、学校では私たち恋人じゃないですかぁ!」


「え、あー、そう言うことか」


 学校のことが今の俺の頭の中で隅の方に追いやられてしまっていたから一瞬何を言っているのか理解できなかったが。理解できた。


「なのでっ!久々に学校に登校しましょう!」


「え・・・?」


「そうすれば私たちは名実ともに恋人になるんですから!たまには私とも恋人になってくださいよ〜、じゃないとアピールできないじゃないですかぁ」


 ・・・そう言えば俺は怪我関連で初音が引き延ばしで休みの連絡を入れてくれたらしいけど、あゆとか天銀とか小姫さんとかはなんて言って学校を休んでるんだろうか。


「あゆも最近学校に行ってないと思うがどうやって休んでるんだ?」


「成績で黙らせてます〜」


 その頭脳が欲しい。


「そ、そうか、でも、出席日数とか・・・」


「そこは・・・細かいことは良いじゃないですかぁ」


 さては何も考えてなかったのか。


「だめだろ!何も考えてないなら登校しないと!」


「うるさいなぁ、ちゃんと手は打って・・・あ」


 あゆは何か口文を述べようとしたところで、間の抜けたような声を上げた。

 あゆにしてはかなり珍しい。


「どうし───────」


「そうですよねっ!何も考えてないならちゃんと登校しないとダメですよね〜」


「あ、あぁ、わかったなら良い」


 あゆにしては聞き入れが早いが、まぁこれは先輩として良い感じに喝を入れることに成功したのではないだろうか。


「あ、でもこの前私外出た時変な怖い人に絡まれたんですよ・・・」


「・・・そう、なのか?」


「はい・・・だから1人で登校するの怖いな、って」


 ・・・ん?


「・・・・・・」


 この空気は・・・


「怖いので、先輩も一緒に登校してくれませんか?」


「え、で、でも俺は───────」


「あの時のことを思い出すだけでっ・・・」


 あゆはその場に蹲った。

 ・・・え?


「あ、あゆ?」


「うっ、うぅぅ・・・」


 あゆはとうとう泣き出してしまった、相当トラウマになっているらしい。

 ・・・さっき先輩としてとか言ったのにここで何もしなかったら都合の良い時だけ先輩を振りかざしてるみたいになってしまう。


「わ、わかった、明日にでも一緒に登校しよう」


「ほんとですかっ!ありがとうございます!」


 あゆは嬉しそうに顔をあげて喜んだ。

 ・・・俺はいきなり決めたことなのでどうしようかと考えるために、一度自分の部屋に戻った。


「・・・そんな簡単に騙されてちゃダメですよぉ、私が一生、今の私みたいに先輩にちょっかいかける人から守ってあげますね❤︎」

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