第758話結婚したら

「・・・今みたいなことって?」


「例えば、連絡先を確認するとか、ちょっと他の女子と話しただけで怒ったりすることとか、視線を送っただけで怒るとか、そんなことだ」


 上げ出したらキリが無いし、正直今こんなことを話しても意味はないんだろうがこれは俺の感情の整理のために必要だと思っている。


「・・・なんでやめなきゃいけないの?それってそーくんが私と結婚したら浮気どころか不倫するから、そんなことされたら困るってこと?」


「そうじゃないんだが・・・結婚するってなったらその時にはそろそろ初音には俺のことを信じて欲しいんだ」


「ちょっと待ってよ、私は別にそーくんのことを信じてないわけじゃないんだよ?むしろ信じたいと思ってるんだよ?」


「・・・それなら、俺がちょっと他の女子と話しただけで浮気だなんて言わないはずだ」


「そもそもなんで他の女と話すの?」


 そこからか・・・

 いや、今までの初音ならきっとそんなこと聞く前に否定から入っていたはずだ、せっかく話を聞いてくれる気になっているのだからここはしっかりと丁寧に説明しよう。


「それは・・・例えば、道に迷ったから近くに居た女の人に道を聞くとか」


「聞くならわざわざ女に聞かなくてもいいよね?」


「・・・店員さんが女の人で、店員さんとちょっと軽く話すとか」


「女の店員が居る店に入る意味がわからないんだけど?」


「いや、そんなの店に入るまではわからないだろ?」


「女の店員が居たら出たらいいよね?」


「そういう制限をやめてくれって俺は言ってるんだ・・・!」


 俺は少しだけ語気を強くする。

 あんまり語気を強くするのは好きじゃないけど・・・仕方がない、これは将来のためでもある。


「・・・はぁ、わかったよ」


 ・・・え?


「じゃあ結婚してくれたら、その時は今そーくんが言った通りにするよ」


 今の話の流れで俺の提案を受け入れてくれた・・・?

 自分で言ったことだが、初音がこんなことを受け入れてくれるとは全く思っていなかったため、かなり驚いている。


「そ、そうか」


「うん、ね?」


「・・・え、するまでもそれに向けて意識改革をしたりとかは?」


「するわけないでしょ?法で守られた関係が手に入るまでは絶対に気を抜かないから、はぁ〜あ、本当は今にも引っ越したいんだけどね〜」


 引っ越す場所の条件が初音の中では色々あるのだろう。

 ・・・結婚してくれたら、か。

 これはなんともグレーゾーンな返答だ。

 ますます俺が初音のことを本当に恋愛感情で好きなのか恐怖でただ一緒にいるだけなのかがわからなくなってきた。


「で、そーくん、なんだっけ、私のことが本当に好きかどうかわからないーだっけ?」


「え、あ、あぁ」


「はぁ・・・いいよ、じゃあ今からそれを一瞬で試してあげる」


「え───────っ!?」


 初音は俺の顎を自分の顔に引き寄せたかと思うと、いきなりキスをしてきた。


「今、私にキスされてどう思った?」


「ど、どうって・・・」


「聞かなくてもいっか」


 初音は俺の胸に手を当てた。

 ・・・それはドキドキするに決まってるだろ!


「ふふ、それが答えだよ」


 そう言うと初音は安心したような面持ちでキッチンの方へ向かった。

 ・・・これが答え、か。

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