第754話恋人として
「ちょっとくらい先輩のこと貸してくれたって良くないですか〜?」
「良いわけないでしょ?」
初音とあゆはよくもまぁそんなにずっと言い合うことがあるなと思うほど延々と言い争いを続けている。
これが言い合いなんかでなければまさにトーク力の化身だ。
「そーちゃん、ちょっと良い?」
「・・・結愛?」
「・・・ちょっと来て」
「・・・・・・」
いつもならなんでだと聞き返すところだが結愛の雰囲気がいつもとは少し違うため、俺は何も聞かずについていくことにした。
連れてこられたのは洗面所前。
「そーちゃん、私まだ実感ないの」
「実感・・・?」
「私たちもう恋人なんだよね?」
「あ、あぁ・・・」
俺の捉え方としてはケジメをつけるための恋人だが、結愛からするとそんな事情は関係無いだろう、というか俺としても恋人として付き合うのであればしっかりと向き合いたいとは思っている。
・・・が。
「でもそーちゃん全然恋人らしいことしてくれないよね?」
やはりそういうことらしい。
だが俺はそれに対抗できる返事を持っている。
「俺だって恋人になったからにはちゃんと恋人らしいことをしたいとは思っているが、初音の目の前で露骨にそんなことをすると浮気を疑われてしまうかもしれない」
「浮気を疑われるんじゃなくて、そーちゃんは浮気をしてるんだよ?自覚あるの?」
「わ、わかってる、わかってるがそれが初音にバレるのはまずいだろ?」
「・・・・・・」
これには結愛も何も言うことはできないのか、一瞬の沈黙が生まれた。
「・・・でも、順序が違うだけで、私だってそーちゃんの恋人なんだよね?」
「それは、そうだ」
「だったら、そろそろ恋人としての何かをしてくれないかな?」
「恋人とし──────」
「してくれないなら、私だって色々と考えないといけないよ?」
珍しく結愛が初音に対してではなく、俺に対して直接的な正の感情と負の感情があるとするなら負の感情を俺に対して向けてきている。
「わ、わかった、考えるから、待ってくれ」
恋人らしいこと・・・恋人と言えばやはり一緒に出かける、と言うのが共通意識で出てくるものでは無いだろうか。
ならば・・・
「い、一緒に出かけるとかどうだ?お寺とか!」
「・・・そんなの恋人じゃなくてもできるよね?」
「うっ、じゃ、じゃあ!出かけながら・・・」
頭を回せ、考えろ。
恋人、恋人らしいこと・・・
出かけてる間に・・・そうだ!
「て、手を繋ごう・・・!」
これならただの友達とはしないし、仮に初音にばれたとしても一度殺されるくらいで済むだろう。
「・・・そーちゃん、私今真面目に話してるんだよ?」
「・・・え?」
「あの虫と比較してよ、あの虫とはもう肉体関係なんだよね?それなのに私とは手を繋ぐだけって、それってどうなのかな?」
「え、い、いや、別に肉体関係ってわけじゃ・・・」
「でもあの虫の裸、見たんだよね?」
「・・・見た、けどあんまり覚えてないんだ」
実際本当に薄らとしか覚えてない。
胸・・・については覚えてしまっているが、もう一つの大事なところに関しては本当に全く覚えていない。
少しトラウマになってしまったからか本当に覚えていない。
多分あゆとかにいびられたことも関係しているだろう。
「だったら私とも同じことをするのが恋人じゃないかな?」
「ま、待ってくれ、初音と俺は付き合って長いが結愛は本当についこの間からだ、そんなに焦る必要は無いと思う、そ、それに、結愛の裸だって前お風呂場で見た、だろ・・・?」
もちろん俺の本意ではなかったが。
「あれはそーちゃんの意思じゃなかったでしょ?そうじゃなくて、私はちゃんとそーちゃんに私のことを求めて欲しいの」
「・・・でも、そんなことしたら初音が──────」
「なんでここであの虫の名前が出てくるの?」
「えっ・・・」
「・・・そーちゃん、そろそろあの虫に対する感情が愛情じゃなくて恐怖だってことに気付こうよ」
・・・愛情じゃなくて、恐怖?
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