第751話今流行りの婚約破棄

「わぁ、大きな声ですね〜」


 俺たちはすぐにその声の元であるリビングの方へ向かった。

 霧響があんなに大声を出すとは・・・虫が出ても冷静に何の躊躇もなく対処するあの霧響が一体何にそんなに大声を出すことがあるんだ。

 リビングに着くと、霧響は絶句した表情で目の前に置かれているパソコンと向かい合っている。


「ど、どうしたんだ?霧響」


「お、お兄様・・・も、もしや、お兄様もこれによって毒されてしまったんですか?だからお兄様は私と昔した婚約を無下にするようなことばかり言うんですか?」


「何の話だ」


 話の展望が全く見えない、毒されて婚約を無下に?

 本当に一体何の話をしているんだ。


「これですよっ!」


 そう言って霧響が見せてきたのはとある広告。


『今流行りの婚約破棄!今が参入時です!』


「・・・え?」


 これって・・・


「お兄様!いくらお兄様が騙されやすいからといってこんなものが今流行りなわけないじゃないですか!何故こんなものに騙されてしまったんですか・・・!お兄様がこんなものに騙されさえしなければ今頃は私との婚約を認めてくださっていて将来の行く末についてたくさんお話をする時間が設けられていましたのに!!」


「ちょっ、と待て!その婚約破棄っていうのは──────」


「言い訳は不要です!そこに座ってください!こんなものはまやかしだと言うことを教えて差し上げます!全く、まさかこんなものにまでお兄様が騙されてしまうとは、私の計算外でした・・・」


 霧響は俺にリビングの椅子に座るように言ってくる。

 待て、本当に最悪だ。

 どうしてネット広告というものはいつもいつも俺のことを苦しめてくるんだ。

 この婚約破棄というのは今おそらく主に女性に人気なラノベとかの婚約破棄のことであってリアルなことでは絶対に無いだろう。

 リアルで婚約破棄が流行るわけがないことくらい俺にだって分かる、どこまで無知な子供のように扱われてしまっているんだ。


「そんなことは言われなくても分かってる、いいか?霧響、その婚約破棄っていうのは霧響が思ってる婚約破棄とは──────」


「言い訳!不要!早く!座って!くださ!い!!」


 最悪だ・・・せめてここに月愛でもいてくれたら説明してくれるかもしれないのに、いっそのこと今度霧響と会ってみてもらってもいいかもしれない、そうすると霧響の知識の幅も広がって許容力だって上がってくれるはずだ。

 なんて未来への希望に現実逃避するほか今の俺にできることはない。


「わ、わかっ──────」


 俺が言われるがままにしようとしたところで、後ろから聞こえてきた声に制止された。


「現実で婚約破棄なんて流行るわけないじゃん、馬鹿じゃないの?フィクションだよフィクション」


「えっ・・・」


 まさかの助け舟を出してくれたのは、ずっと沈黙を貫き通していた小姫さんだった。

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