第741話あゆの自傷

「えっ、ちょっ・・・え!?」


 あゆは自分のお腹を刺したかと思うと赤い鮮血を撒き散らしてその場に倒れ込んだ。


「あ、あゆ!?大丈夫か!?」


 俺は急いであゆの方に駆け寄った。

 心のどこかでどうせケチャップだとかあゆの何かしらのドッキリだなんて思っていたが、ここまで近づくと本当にわかる。

 これは・・・本物の血だと。


「そーくん、そいつが自分で自分のこと刺したんだから心配なんてしなくてもいいって」


「で、でも──────」


「そう、ですよ、先輩・・・考えが、あっ、てのことです、か、ら」


 あゆは少し起き上がると自分のお腹に刺さっている包丁を抜いた。

 抜いたところからまたも血が出てくる。


「・・・ぅっ」


 本当に吐き気がしてきた・・・むしろ目の前でこんなことが起きたらもっと叫んだりするのが普通なんだろうが、初音とあゆの空気感があまりにもそんな叫んだりするような空気感じゃないから俺の感情をセーブされている気がする。

 ・・・そんな状態でもやはり吐き気はしてくる。


「・・・っ!そうだ!救急車!」


「大丈、夫です、よぉ、見た目血がいっぱい出てるだけで、絶対に死ぬことはないところ、刺しました、から・・・先輩、とは、頭の、次元が、違うんで、す、よ♪」


 そんな減らず口を叩けるなら大丈夫か、と言いたいが流石にこんなにも流血していると強い語気を使おうにも使えない。


「え、えーっと・・・」


「だからそーくん、そいつが自分で刺したんだから、心配なんてする気遣う必要なんてなければ心配なんてもっとする必要ないんだって」


「ん・・・」


 そう言われてもやはり難しいものは難しい。

 というか・・・


「なんでこんなことを・・・?」


「決まってるじゃないですかぁ、先輩と白雪先輩を離れさせるため、ですよぉ」


「・・・え?」


 あゆはだんだんと痛みに慣れてきたのかさっきより少し流暢に話すようになったが、相変わらず自分で刺したところを抑えているハンカチには血が滲んでいる。


「別れさせるって・・・」


 こんなに初音と居てまだ初音と俺を別れさせようとしてるのか。

 受験とかよりも難易度が高い気がする。


「別れさせる、なんて言ってないですよっ?って言ったんですぅ」


「離れさせる・・・?」


「これ、誰の包丁か覚えてます?」


 あゆは今あゆ自身のことを刺した包丁に目を配りながら言う。


「えっ・・・初音のだろ?」


「そうなんです、でも私は・・・」


 あゆは自分の手から透明な手袋のようなものを外した。


「これをしてるから、包丁に私の指紋はついてないってことなんですぅ」


「・・・ん?」


「つまり・・・今ここに警察が来たら、証拠的には白雪先輩が私のことを刺したってことになるんですよ〜♪」


「えぇ!?」


「・・・・・・」

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