第724話先生と電話

 俺はとうとう洗面所前で一人になった。

 ・・・別に一人になるのが嫌ってわけじゃないけど、なんで自分の家なのにこんなにも控えめな対応をしないといけないんだろうと思ってしまう。


「・・・はぁ」


 いっそのこと実家に戻るっていうのも・・・いやでもそもそもこっちに来たのは母さん達の都合だし、今更だよな。


「・・・はぁぁ」


 もはやため息することしかできない。


`プルルルル`


『学校』


「あっ・・・」


 ・・・もはや完全に忘れていた。

 足もまだ完治とまでは行かないまでもだいぶ慣れてきたおかげか感覚的にはほとんど完治している、のに学校に行っていない。

 つまり・・・今の俺はほとんど不登校なのである。


「む、無視・・・」


 いや、でもきっとここで無視したら今度さらに電話に出づらい・・・か。

 なら・・・


「・・・はい」


『あっ!最王子くん〜、良かった〜先生心配したよ〜』


 電話越しに聞こえるのは、本当に久しぶりに聞く担任の七海先生の声だ。


『お体大丈夫〜?』


「あ、お、おかげさまで・・・!」


『良かった〜!もうちょっとで夏休み入っちゃうから、一応それだけ報告しておこうと思って』


「あ〜、わざわざありがとうございます」


『うん、先生の一番は生徒の安否だからね〜』


 ほっ・・・怒られるかと思って覚悟してたけど、全然そんなことはなかったらしく、むしろ優しい。


『あ、そう言えばあんまり先生が踏み込むことじゃないんだろうけど、その後白雪さんとはどんな感じ〜?』


「え・・・?」


『別に言いたくなかったら言わなくて良いんだけど、先生だって人間だし、そう言うのもちょっとは気になるって言うか〜?』


「え、えーっと・・・」


 先生に恋愛話・・・確かに結構前にしたけどあれはイレギュラー中のイレギュラーでこんな簡単にれない事情を話して良い相手でもないだろう。


『あっ!全然無理にとは言わないからね〜、ただ・・・浮気だけはしたらダメだよ〜?』


 包丁で後ろから刺された気分だ。


『浮気ってね、した側はちょっとの罪悪感で済むんだけど、された方は一生傷になるんだからね?』


 それを今先生に言われたことで俺の罪悪感が膨れ上がってきた、本当に吐きそうだ・・・これでちょっとの罪悪感、なのか?


「はい・・・」


『うん、それだけー、切るねー』


 そう言うと先生は電話を切ってしまった。


「・・・はぁ〜」


 最近は本当にため息をすることばっかりだ。

 ・・・浮気、か。

 これもちゃんとした恋愛への第一歩のためなんだ、我慢・・・するんだ、俺。


「あ〜!」


「・・・え?」


 今のは・・・あゆの声か?

 リビングの方から聞こえたような・・・嫌な予感がするが行ってみよう。

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