第717話あるものをないものに

「ちょっ、ゆ、結愛!?」


 結愛は包丁を初音の方に向けたまま初音の方に突進する。


「痛っ・・・」


 ギリギリのところで避けたが初音の手首が若干切れている。

 切れたところからは血が垂れ始めている。


「桃雫さん!」


 天銀が結愛のことを必死に抑えている。


「離してよ!そーちゃん以外の男子に触られてるところをそーちゃんに見られるのも嫌だし触れられたくもないっ!」


 結愛はとりあえず天銀の拘束を解くことに全神経を注いだのか、力ずくで天銀からの拘束を解いた。


「そーちゃん、やっぱりこんなのと一緒に居たらそーちゃんまでおかしくなっちゃうよ、これからは2人になろ?昔みたいに」


「ゆ、結愛・・・」


「うわぁ、完全に狂っちゃってますね〜」


「狂ってないもん」


「え〜、それで人のこと包丁で切っちゃってるんですよ〜?」


「私にとってそれが正解なことだから」


「それで白雪先輩が死んじゃったらどうするつもりだったんですかぁ?」


「殺すつもりはなかったよ」


 それニュースとかで良く殺人未遂の人とかが言ってるやつじゃ無いのか!?


「そんなことより!そーちゃん!まだ高校生の内ならいくらでも引き返せるよ!そーちゃんがこんな女と結婚なんて愚の骨頂な考え方になる前に早く駆け落ちしよ!」


「駆け落ち・・・」


「そっ!私とそーちゃんで駆け落ちするのっ!」


「そんなことさせるわけないでしょ?」


 今まで黙って話を聞いていた初音がそんなことは有り得ないと否定してくる。


「私に言わせてみれば、そーくんが私と結婚するなんて話は大前提だから今更そんなところ掘り返されてもって感じだし」


 えぇ・・・まぁ分かりきってはいたことだけど初音はやっぱり俺と結婚するつもりでいるらしい。


「・・・はぁ、ほんとに私がいない間にこの虫さえそーちゃんに寄生してなかったら、どれだけ幸せだったのかな」


 結愛は遠い目で言う。


「えぇ〜?それって私なんて相手にもならないってことですかぁ?あゆショックですぅ〜」


 今時ここまであざとく自分のことを自分の名前で呼ぶ人が居るだろうか。


「そうじゃ無いけど、厄介にも種類があるの」


「なるほどぉ〜!」


 納得が早い。


「まぁ、無い物ねだりなんてしたって仕方ないよね・・・いや、あるものを無いものにしたいんだけど」


「・・・・・・」


 思い、空気が重い。


「・・・そうだ〜!先輩たち!裸の付き合いということでお風呂にでも入ったらどうですかぁ〜?」


「は、は?」


「ほら!日本の伝統であるじゃないですかぁ〜!」


「そ、そうだけど・・・急すぎるだろ!」


「なんで私がこんな女と・・・それに私はそーくんのご飯を作ってあげなきゃだし」


「私がそーちゃんにご飯作るの」


 本当にそのプライドはなんなんだ。

 こんなの一見したら幸せなのかもしれないけど一周回って全然幸せじゃない。


「あ〜、そうですかぁ・・・じゃあ私たちは邪魔みたいなので、私たち3人でお風呂に入りましょう〜!」


 元気良く。


「は?無理」


 即座に否定。


「そーちゃんが私以外の女とお風呂に入るのはいくらなんでも嫌かな」


「1000歩譲ってもそーくんと性別的には同じ天銀だけなら良いけど、どっかの淫乱女は絶対無理」


「はぁ〜い、じゃあ私は大人しくしてまぁ〜す」


「・・・え?」


「何してるんです?先輩、邪魔ですよ〜、ほら天銀先輩も」


「えっ?ちょっと、あゆさん・・・!?」


 俺と天銀は何故かいきなりあゆの計らいによって脱衣所まで連れてこられた。


「はいっ、ごゆっくり〜」


 あゆは脱衣所のドアを閉めた。

 ・・・は?

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