第708話最悪の誤解

`コンコン`


「・・・ん〜?」


 俺は眠い目を擦り、ベッドから上体を起こす。

 今のは・・・ノック音?


「明くん?もう起きてる〜?」


「・・・え?あ〜、起きてる」


 寝起きなため少しだらけた態度になってしまう。


「ちょっと取りたいものあるから入っても大丈夫〜?」


 あぁ、そうか。

 そう言えばここは母さんと父さんの寝室だった。


「大丈夫」


 俺は母さんにそう返事をし、無意識に寝癖を直す。

 母さんは部屋に入ってくると、引き出しから小さな箱を取った。

 多分化粧品とかが入っているケースだ。


「明くん・・・!」


「ん?」


 母さんは俺の方を見て両手で口元を押さえている。


「1日でそこまで・・・頑張ったね!大丈夫!お母さんは明くんのこと応援してるからねっ!!」


「な、何の話だ?」


 俺はそう聞きつつ母さんの視線を追う。

 どうやら俺の後ろを見ているらしい。

 俺はその視線通りに後ろに振り返ってみる。

 すると・・・


「・・・え!?」


 初音が隣で寝ていた。

 ・・・そうだ、昨日俺は初音と一緒に寝たのか。

 昨日は色々とありすぎて感覚が絶対におかしくなってたな・・・自然に初音と一緒に寝るなんて普段ならありえな──────


「って、え!?」


 俺は思わず2回驚いてしまう。

 眠っている初音の姿がなぜか下着姿になっていたからだ。


「な、なんで初音が下着姿に・・・!?」


「明くん〜?私の前だからってそんな演技しなくても大丈夫だよ〜?私とお父さんだって経験したことなんだし・・・❤︎」


「ちょっ・・・!ち、違う!本当に何もしてない!」


 本当に何もしていないのにそう言うことをしたみたいな現場に我が母親が居合わせるこの気持ちを考えていただきたいところだ。

 最悪である。


「んん・・・」


 初音はちょうど今起きたらしく、か細い声をあげた。


「あっ、そーくん、おはよう❤︎昨日は楽しかったね❤︎」


 初音は更に語弊を生むようなことを言う。


「は、初音・・・!」


「何焦ってるの?そーく──────」


 初音は俺の後ろを見て驚いた表情をする。


「そ、そーくんのお母様!?」


 どうやら母さんが居ることに気づいたらしい。


「あ、初音ちゃんおはよー!昨日はお楽しみできたかな?」


 母さんは懲りもせずに初音にまでそんなことを聞く。


「・・・っ」


 初音は苦そうな顔をする。

 ・・・ん?

 なんでここで苦そうな顔をするんだ・・・?


「あっ・・・気を落とさないでっ!私だってを損ねたことぐらい無数にあるからっ!!」


 機会を損ねた・・・?何の話だ?


「・・・はい、ありがとう、ございます」


 初音は何故か落ち込んでいるように見える。


「次にそーくんのお母様に会う時までには、必ず成し遂げて見せます」


「楽しみにしておくね」


「ちょ・・・?2人とも・・・?さっきから何の話を・・・?」


「なーんでもないよっ!女性同士の秘密!ねっ、初音ちゃん?」


「はい!」


「は、は・・・?」


 俺には良くわからなかったが、どうやら2人には通ずるものがあるらしい。

 母さんはそう言い残すと、部屋を後にした。


「・・・いや!誤解だからなー!!」


 俺は最後まで誤解を訴え続けた。

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