第706話恋人から婚約へ

「・・・あっ、そうだそーちゃん、一つ言っておきたいことがあるんだけど」


「・・・なんだ?」


 このタイミングでその感じで言われることって・・・なんだ?


「さっき私そーちゃんの子種採取したけど、あれをそーちゃんが知らない間に勝手に体内に取り入れて妊娠しようなんて考えてないから、それは安心してね」


「・・・え?あ、あぁ」


 結愛は俺から採取したものを悪用する気は無いと言う胸を伝えてきた。


「あくまでもあれはだから」


「さ、最終兵器・・・?」


「そーちゃんがこの虫に洗脳されたまま私と婚約してくれなかった時用のね」


「そ、それってつまり・・・?」


「そーちゃんが私と婚約してくれなかった時の保険、ってことだね」


 柔らかく言ってはいるが、これってもしかして・・・普通に脅されてるのか?


「本当はこんなそこの虫みたいなあくどい手法は使いたく無いんだけど、それだけ私の想いが強いって、受け止めてくれないかな?」


「・・・・・・」


 俺はどうとも答えられなかったため、黙ってしまう。


「・・・ねぇ」


 そのやり取りを珍しく黙って聞いていた初音が、口を挟んできた。


「ちょっと今のやり取りで疑問に思ったんだけど、婚約って何?」


「・・・え?」


 俺には初音が何を疑問に思ってるのか分からなかった。

 確かに高校生で婚約話なんて普通に考えたらおかしい話だが、そんなの今更だ。

 初音だって高校生にして結婚がどうのとか言っていたし。


「婚約って何って何?とうとう言語能力も失ったの?あ、ごめん、元々だったかな?」


 結愛は疑問を唱すると共に煽りを入れた。


「今までは分不相応にもそーくんと恋人になるってずっと言ってたのに、なんで今度は霧響ちゃんみたいに婚約にまで跳ね上がってるの?」


 ・・・あ。

 そうか、結愛はもう俺と恋人になっているから恋人の次の段階、婚約と言ってしまったんだ。


「・・・別に?最終目標を掲げただけだよ?」


「じゃあそーくんはなんでそれを疑問にもなんとも思ってないような顔してるの?」


「え、え?」


 ここで俺に振られるのは非常にまずい。


「べ、別にそんなの今更じゃないか・・・?」


 と言いながら俺はもうこれ以上俺にこの話題を振らないでくれとばかりに顔を逸らす。


「・・・そう、だね」


 初音はそう返答した後で一瞬固まったが、顔を揺らして何かに納得したかのように頷いた。


「ごめんね、ちょっと変に勘繰っちゃったみたい」


「あ、あぁ、別に良いんだ」


 今までは初音の勘繰りすぎで俺が内心では被害者なような気がしていたが、今では俺が初音に隠れて浮気をしている加害者になってしまっている。

 つまり何が言いたいのかというと、罪悪感がすごい。


「・・・・・・」


 初音は表面上は誤っているが、勘繰るような視線を止めない。

 俺はできるだけその視線から逃げていたが、たまに目が会うと全てが見抜かれている気がして、早くも我慢ができなくなってしまい、浮気しているのを言ってしまおうかと思ったが、なんとか堪えることに成功した。

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