第704話子種に命令?

「な、何してるんだ?結愛」


 結愛はその注射器の側面についている上下に左右できるスイッチのようなものを一気に引いた。

 すると注射器の中に液体がだんだんと注入されて行く。

 どうやらスポイトのような機能を持った注射器らしい。

 ・・・って、ほとんどの注射器がそういう機能を持っているんだろうか、注射器のことなんて詳しくは知らないためよく分からない。


「・・・うん、良いね」


 結愛は注射器に液体が注入されていくのを見て満足したのか、注射器を持ちながら立ち上がった。

 そう言えば、液体・・・?


「結愛、その液体ってなんなんだ・・・?」


 俺がそう聞くと、結愛は少し恥ずかしそうに。


「そーちゃんの子種、だね・・・❤︎」


「・・・え!?」


 いや!・・・え!?

 それを聞いた瞬間、初音は結愛が手に持っている注射器を俺の目で捉えきれない速さで奪おうとするが、結愛はそれを回避して全力でこの部屋から出て行ってしまった。


「ちっ・・・」


 初音は苦そうな顔をする。


「そーくん!」


「な、なんだ?」


「そーくんの子種にっ!しっかりとっ!言いつけといてねっ!」


「な、何を・・・?」


「あんな女の中で子供なんて作らないようにっ!言いつけといてねっ!命令しておいてねっ!!」


「は、は!?」


 いくらなんでも無茶がすぎる。

 そんなことはきっとどこの誰にもできない、少なくとも人間には。


「む、無理に決まってるだろ!?」


「は?じゃあ何?あの女との子供ができても良いっていうの?」


「そ、そうじゃなくて・・・」


「そう言えば、さっきあの女で気持ち良くなった分のしてなかったよね」


 ・・・・・・。


「・・・・・・」


「・・・何黙って固まってるの?やること分かってるよね?」


 流石についさっきあんな疲労感を得た直後に2連続でというのはいくらなんでも死んでしまう、心臓が持つ気がしない。

 ・・・仕方ない、一芝居打とう。


「うっ・・・」


 俺は心臓を押さえる素振りをして、その場に倒れてみる。


「・・・えっ?そーくん?」


「はぁはぁ」


 そして息遣いも荒くし、いかにもドラマとかでありそうなシーンを再現する。


「どうしたのっ!?そーくんっ!?」


「は、初音・・・さ、さっきの余波で、心臓が・・・だから、今日はもうこれ以上何かすることは──────」


「待っててねっ!そーくんっ!すぐに病院に電話するからっ!!」


「えっ、ちょっと待──────」


「心臓が苦しいってことは外科医に任せたほうが良いのかな?それとももしかして私以外の女に子種を奪われたことから来たショックから来てるなら精神科医を呼んだ方が──────」


 や、やばいやばいやばい。

 このままだと本当にお医者さんを呼びかねない流れだ。

 流石に仕事中のお医者さんにまで迷惑をかけることはできない。


「悪かった嘘だ!」


「・・・え?」


 俺はすぐに演技をやめて土下座をする。


「これ以上の、その・・・性的なことは俺の体力が持たないと思って演技をしたんだ」


「・・・そーくん、顔を上げて」


 と初音は優しい声で言った。

 よ、良かった、やっぱり初音は所々で優しい。

 俺はそんな思いを元に顔を上げ───────


`パチンッ`


 ・・・え?

 俺は頬に強い衝撃を感じ、初音の方に顔を上げると。

 そこには今にも泣き出しそうな顔をした初音がいた。

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