第703話略奪者はどっち

 俺は2人が話し合いをしている間にこっそりと服を着ておく。

 流石にいつまでも裸でいるのは恥ずかしいにも程がある。


「──────で、そーくんは何勝手に服なんて着てるの?」


「え」


「そーくんが裸じゃないと私が眼福できないでしょ?早く脱いで」


 こんなにも裸を強要されることがあっても良いのだろうか。


「も、もう事は済んだし、一旦服ぐらい着ても良いだろ?夏とは言え、風邪になる可能性もあるし・・・」


「風邪なら風邪で私が看病してあげるから、脱いで」


 初音の中では風邪、だいなり俺らしい。


「もう〜、これだから虫は・・・そーちゃんが常に裸だったらその裸の希少価値が下がっちゃって眼福度も下がっちゃうでしょ?」


「は?常に裸でいてもらうことでこれからどんどん今は希少なものも希少じゃなくして行って日常の眼福ポイントを増やしていくんでしょ?」


 俺は言葉の意味はわかるけど理解ができないという謎の矛盾を抱きつつ、本当に服を脱がなければいけないのかとドギマギしている。


「・・・大体さ、さっき私のこと泥棒猫とかって言ってたけど、私からすると泥棒はそっちなんだよね、私は小さい時からそーちゃんと一緒だったんだから」


「でも、そーくんと同じ高校にはいなかったよね?いたら私と会ってるはずだし、それってつまり高校生になるまでの間にそーくんを手放したってことだよね?」


「そ、それは・・・」


 結愛と俺は小学校までは一緒だったが、中学からは学校が変わった。


「そーくんのことを途中で離した女なんかに今更出しゃばられても私とそーくんの未来の邪魔なの、わかる?」


「私だって離れたくて離れたわけじゃないもん!」


 結愛は子供のようにただただ大きい声でそう言い放った。


「私だったらどんな理由があろうとそーくんと小さい時から一緒なんて世界一高い身分に居たなら何がなんでもそーくんから離れなかったよ、それが私とどっかの泥棒猫のそーくんに対する愛情差ってことでしょ?」


 確か実際は「そーちゃんとの将来のことを思うからこそ、一旦離れるだけだからね、もっと良い女になってくるから」と小学6年生にして言っていたような気がする。

 そうだ、すっかり忘れてしまってたな。

 当時の俺には意味がよく分からなかったせいだろう。


「そーちゃんとの未来を思うから一旦離れたのっ!こんな虫がそーちゃんに纏わりつくなんて分かってたら絶対離れてなかったっ・・・!」


 結愛は悔しそうに言う。


「ふんっ、今度は負け惜しみ?」


「・・・負けてないし」


「・・・は?」


「負けてないもんっ!」


 結愛は何処からか注射器を取り出した。


「は、は?」


 も、もしかしてまたあれを俺に刺すのか・・・?

 と思った矢先。

 結愛は地面に注射器を刺した。

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