第684話一肌脱ぐ
「ぁぁぁぁぁぁ・・・」
「と、父さん!そろそろうるさい!」
「悪い・・・」
父さんはあの料理を食べたから数十分ぐらいずっとこの調子だ。
母さんは一体料理に何を入れたんだ。
「そーくん」
「はい」
俺は初音に何を言われてもこちらは真摯な対応をとりますよという意思表示をするかのように敬語で対応する。
「当たり前のこと確認して悪いんだけど、今日って一緒にお風呂だよね?」
「はい・・・はい!?」
一緒にお風呂・・・!?
「何今更驚いてるの?今まで何度も一緒にお風呂ぐらい入ってきたでしょ?」
「いやいや!今まで一度だって俺から入りたいと思って入ったことはない!全部基本的には全部成り行きでそうなっただけだ!」
「・・・え?じゃあ何?今まで一緒にお風呂に入りたくもない私と一緒にお風呂入ってたの?」
「えっ」
な、なんだその最悪な言い回しは・・・
「見たくもない私の裸見て心の中で嘲笑ってたってこと?」
「そ、そうじゃないって」
「じゃあ?」
「・・・ずっと一緒にお風呂に入りたいと思ってました」
俺は言わされることになってしまう。
「・・・はぁ、照れちゃうのもそーくんの魅力だけど、行き過ぎた照れは私に対する愚弄だからね?」
恋人関係で愚弄なんて言葉を使う恋人が果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
「で、さっきの話で、当たり前のこと確認するのは私も悪いと思ってるんだけど、今日私と一緒にお風呂入るんだよね?」
両親がいる実家で初めて両親の前に連れてきた彼女とお風呂に入ると言うのは大分精神的に厳しいものがある。
なんとかして切り抜けるしかない。
「は、初めて俺の両親に会ったのに初日から俺と一緒にお風呂っていうのはちょっと・・・な?」
「どういうこと?」
俺は察して欲しいように仕向けたが、初音は本当に俺が何を言ってるのか理解できないという面持ちだった。
「だ、だから・・・倫理的に考えて、ってことだ」
「恋人とお風呂に入ることの何を倫理的に考えないといけないの?きっとそーくんのお母様も理解してくれると思うよ?」
やはりこっちがどれだけ引いても初音はむしろ押し迫る勢いだ。
こうなったら、やはりいつもはしていない方法で行くしかない。
「そうだな、俺が悪かった」
「ううん、全然大丈夫──────」
「なら俺も男として今日は一肌脱ぐしかないな」
という普段の俺なら絶対に言わないし今言いながら自分で気持ち悪いと思ってるが、これも今日初音とお風呂に入らないためだ。
「一肌・・・?」
「もし今日俺と初音が一緒にお風呂に入るようなことになったら」
「なったら?」
「初音を殴る」
「・・・え?」
もちろんそんなことはしないが、これも初音に「ん〜、そういうことなら今日のところは仕方ないね・・・」と言わせるためである。
殴るとかっていうのはかなり反則かもしれないが、そんなことは後で幾らでも謝ればいい。
ここで初音とお風呂に入ってしまったら、俺の両親に俺も初音とお風呂に入るのを望んでいたと勘違いされ、高校生のうちに婚約、18歳になった瞬間結婚ルート待ったなしになってしまう。
「しかも殴るだけじゃない、初音のことを殴って気絶させた後色々な手段で辱める」
「・・・・・・」
「そんな俺と一緒にお風呂になんて入らないほうが──────」
`ズドッ`
直後首元に強い衝撃を受ける。
「ぇ・・・?」
何が・・・起き・・・?
「はぁはぁ❤︎」
俺は薄れていく意識の中で、初音が目をアニメのようにハートにして俺のことを見ているのが薄らと見えた。
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