第682話アルファベッドの重み
「お兄様、お母様はお父様にお食事を作って差し上げるそうなのでしばらくお空きになるそうです」
「そうか」
俺はスマホ片手にそう返答する。
「・・・なんですかその適当な返事は」
「いや!これ以上何を返事しろって言うんだ」
「・・・それもそうですね、何を見ているんですか?」
初音は俺のスマホ画面を覗いてきた。
別に特に見られても困らないため、隠したりはしない。
「あぁ、新しいゲームがどんなのがあるか見てたんだ」
ここ最近は全然1人でゲームができてなかったからな・・・そろそろ禁断症状でせめて新作ゲームを見るというワクワクぐらい刺激として与えられないと苦しくなってきた。
「ゲーム、ですか・・・娯楽は結構ですが、間違ってもゲームのキャラクターに恋をする、なんていうことだけはやめてくださいね」
「わ、わかってるって」
新作ゲームで俺が見るのはまずタイトル、次にそのゲームを表す数枚のスクリーンショット画像・・・そして。
「Z・・・!」
対象年齢・・・正直Z以外は暗黙の了解で緩い気はするが、Zだけは未成年だと店で買えないとかネットだとクレジットカードじゃないと購入できない等の制限がある。
面白そうなゲームがZだった時ほど絶望することは無い・・・と言おうと思ったが全然それ以上の絶望はあった。
初音に浮気がバレることの方が全然絶望的だ。
それに比べたらさっき俺が言ったことなんて絶望でもなんでもないな、うん。
俺はまたもゲームをスライドさせていき・・・
「D・・・!」
Dは対象年齢17歳以上・・・今俺は16歳だから本当はダメなんだろうけど、そこは暗黙の了解でプレイはできるな。
「これは・・・Zか」
「・・・そーくん?」
「ん?どうした?」
俺がゲームを見ていると、初音が不穏な声音で話しかけてきた。
「・・・さっきからZとかDとかアルファベット並べてるけど、そのスマホで何見てるの?」
「な、何って・・・別に普通に趣味のものを見てるだけだ」
「趣味?ZとかDって、もしかしてとは思うけど・・・胸じゃないよね?」
「ははは!?そそそ、そんなわけないだろ!?」
「その焦り方・・・怪しいね」
「いやいやいや!」
ま、まさかアルファベットを言っただけで胸だと思われるなんて・・・それは驚くだろ!
「じゃあスマホ画面見せて?そこに胸が映ってなかったら信じてあげる」
「わ、わかった」
俺はすぐに初音にスマホ画面を見せる。
一瞬もスマホ操作の隙がないぐらいすぐに見せることにより、俺が潔白であることを証明できるはずだ。
「・・・っ!そーくんっ!」
「えっ?」
初音は画面一番下を指差した。
そこに書かれているのは・・・
『私を選んで?』
「・・・・・・」
それは、そのゲームの内容・・・ではなく、かなり際どい姿をしている女性イラストの広告だった。
そこにはしっかりと文字で『私を選んで?』という決まり文句のような言葉が書かれていた。
「どういうこと?」
「いやいや!か、関係無いって!こ、広告なんて俺がどうこうできることじゃないだろ!?」
「それを良いことに、この広告で色々と妄想してたんじゃないの?」
あ〜〜〜〜!!広告〜〜〜〜!!
この恨み忘れないからな!!!!!
「虫はいつも妄想が過ぎるんだって」
結愛・・・!
結愛への感謝を日々忘れないようにしよう。
「そーちゃんが私以外でそんな妄想できるわけないじゃん」
結愛・・・!?
「事実そーくんはこんな絵の胸で妄想を膨らませてるんだから、それを否定することはできないよね?」
「だ、だから俺は普通にゲームを見てただけなんだって・・・そうだ!霧響も俺のスマホ画面を見てたならわかるよな?俺は広告なんて見てなかった」
「そうですね、お兄様はそんないかがわしい広告なんて見ていませんでした」
霧響〜!!
霧響への感謝を日々忘れないようにしよう。
「・・・そうなんだ、でも謝らないよ?そーくんが勘違いさせるようなこと言うのが悪いんだからね?」
「・・・はい」
俺はただただアルファベッドを言っただけなのになぜか謝罪させられるまでに至ってしまった。
「お兄様、負債一つ・・・ですよ」
そして謝罪させられた挙句霧響に貸しまで作ってしまった。
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