第679話婚約について

「ひっ・・・」


 という声はいつもなら俺が上げていたが、俺があげるよりも先に父さんがそんな怯えた声を出していた。


「あっ」


 初音は素が出てしまったことに気づいたのか、小さく声をあげた。


「そ、そーくんと似てるからやっちゃった〜・・・」


 初音は人格を切り替えるように・・・


「ごめんなさいっ!ちょっとそーくんが可哀想だなって思っちゃって・・・」


 今にも泣きそうな声で言う。

 ・・・初音の常套句、まるでこっちが悪いかのように仕掛けてくるタチの悪いやつだ。

 客観的に見るとここまでわかりやすいのか・・・


「えっ、あっ、いや・・・ぜ、全然気にしないで良いからな?こっちこそ明のことちょっと悪くいって悪かった」


 父さんはなぜか初音のことを慰めるように言う。

 ・・・本当になんで父さんが悪いみたいな空気になってるんだ。


「いえいえ!そーくんのお父様は全然悪くないんですっ!はいっ!!」


 なんだこの露骨な自作自演は・・・


「あ、そうだ、お父さん!」


 母さんがキッチンでの用事が終わったのか、父さんの隣に行く。


「ん?」


「明くんが初音ちゃんか結愛ちゃん・・・かきーちゃんと婚約するって話になってるんだけど、お父さんはどう思う?」


「えっ」


 選択肢ぐらいには入れておかないと霧響が怒るから、一応母さんの優しさで選択肢に霧響は入れているが、母さんは多分俺と霧響を婚約させる気はない・・・と信じたい。


「初音ちゃんと結愛ちゃんはともかく・・・なんで霧響まで入ってるんだ?」


 が、父さんは母さんの気遣いには気付かず、直球で母さんに疑問をぶつけた。

 父さ〜ん!!!!!


「なんでって、私がお兄様と婚約したいからです」


「い、いや、明と霧響は兄妹だろ?」


「それがっ!なんですかっ!?」


「なな、なんでもない・・・」


 ・・・はぁ。

 ばんばんと地雷を踏むな・・・俺も初音とかの地雷を踏んでしまったりするけど、流石にここまでではない・・・と信じたい。


「・・・で、初音ちゃんと結愛ちゃんも、明と婚約・・・したいのか?」


「「はいっ!!」」


「・・・・・・」


 ここまではっきりとこんな風に言ってもらえるのはとても幸福なことなんだろうけど・・・なんて言うか、本当に惜しいな。


「・・・俺は初音ちゃんのことをまだよく知らないし、結愛ちゃんのことだって詳しく知ってるのは何年も前の時の話だ、だから婚約するかどうかは・・・明に任せる」


「・・・え?」


 ちょ、え?と、父さん!?

 お、俺に丸投げ!?

 俺の父親としてばすっと高校生で婚約なんておかしいって言って欲しかったんだけど!?


「それに、俺の意見としては、高校生の内から婚約っていうのは反対なんだ」


 父さん!!!!!

 信じてた!!!!!

 流石我が父親!!!!!


「・・・え」


 が、初音は不思議そうな顔をしている。


「ごめんね〜?初音ちゃん」


 母さんがなぜか初音に謝る。


「お父さんは昔からちょっとおかしなところがあって、私もお父さんと高校生の内に婚約したんだけど、その時は苦労したんだよね〜」


「・・・えっ?」


 俺はその母さんの言葉に驚く。


「・・・え?高校生の内に婚約、って?」


「あれ?言ってなかった?私とお父さんは高校生の時にるの〜!」

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