第678話総明と酷似

「えーっと、確かコーヒーの種はここに・・・」


`ガララララッ`


 父さんはキッチンの戸棚からコーヒーの種を取ろうとしたが、手が滑ったのか他の物も戸棚から大量に落ちてしまった。


「あー!もうっ!」


 母さんがすぐに父さんが落としたものを拾いに入った。


「はぁ・・・父さんは相変わらずちょっと抜けてるな、本当に母さんが居なかったら1人で生きていくのもちょっと大変だったんじゃないか?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 俺がそう発言した瞬間、初音と結愛と霧響からなんとも言えない目で見られる。


「な、なんだよ?」


「別に〜?」


「なんでもないよ?」


「はい、なんでもないです」


「ん・・・?」


 なんなんだ・・・その後結局母さんが戸棚から落ちた物を全て戸棚に前のまま完璧に戻した。

 流石だ。

 当の本人はと言えば、手伝おうとはしていたがどこから手をつければ良いのか分からないと言いたげな感じの態度で、結局は全て母さんに任せていた。

 そして・・・


「は、初音ちゃん」


 こっちに来て、初音に話しかけてきた。


「はいっ!なんですかっ?」


 初音はまるで接客業でもしているのかと言うぐらい満面の笑みで対応する。


「っ・・・そ、その、は、初音ちゃんは、明のこと、なんで好きなんだ?」


「え?」


「い、一応これでも明の父親だからな、明の恋人っていう君にちょっと聞いてみたくて・・・まぁしがない親心だと思ってくれ」


 ・・・なんていうか、ものすごく恥ずかしい。


「あっ・・・?」


 結愛は少し悔しそうな顔で下を向いている。

 ・・・まぁ、そうか。

 結愛と俺が浮気してることを流石にまだ公にする訳にはいかない。

 俺としてもそれはありがたいが、結愛の気持ちになると・・・こっちまで苦しくなってくるな。


「なるほどですっ!そーくんの好きなところは・・・」


 いつもの初音なら延々と俺の知らないことまで語り出しそうなところだが・・・


「優しいところです!」


 といういかにも模範解答な返答で終わった。


「そ、そうか・・・ほ、他には?」


「かっこいいところと可愛いところと甘えてくるところと甘えさせてくれるところです!」


 甘える俺と甘えさせてくれる俺って・・・どこの世界線の俺なんだ。


「っ・・・」


 父さんは都合の悪そうな表情をした。

 ・・・まぁ、それは当然か。

 今になって初音のこういうところにはもうだいぶ慣れてきたが、父さんからすれば今日が初めて初音と会う日・・・驚いても不思議はない。


「どうしたんですか?そーくんのお父様?」


 俺が気づくほどの表情の変化・・・初音が気づいていても全くおかしくはないだろう。


「い、いや・・・ちょ、ちょっと昔の御子響を思い出して」


「えっ!?昔のそーくんのお母様を!?そ、そんなそんなっ!私なんてっ!!」


 と言いつつも、初音は満更でも無さそうだ。


「そ、それにしてもこんな明にも恋人ができるなんて──────」


「そーくんのお父様・・・」


「ぇっ」


 初音がこの家では未だ出したことがないぐらい低い声音で父さんに話しかけ、父さんは一瞬怯えたような声を出した。


「お父様でも、そーくんを貶すのは・・・ね」


「・・・・・・」


 そこにいるのは、さっきまでの明るい初音とはまるで別人で・・・俺に対して怒っているときの初音にそっくりだった。

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