第676話父からの忠告
その母さんの声を聞いてすぐ、俺と結愛と霧響は玄関に向かった。
初音は流石に布一枚で父さんの前に行くわけには行かないと、俺たちに先に行くよう言ってきた。
玄関に着くと、確かにそこには父さんが居た。
「と、父さん!」
「あ、あー、明、久しぶりだな・・・」
「久しぶりだなって、父さんは今日休日なのにこんな時間まで何してたんだ?」
俺がそう聞くと、父さんは母さんの方をちらちらと見ながら気まずそうにしている。
もしかして母さんと喧嘩・・・とは考えにくいな、16年間一緒に生活してきたけど、母さんと父さんが怒鳴り合ってるのを一度も見たことがない。
じゃあなんで父さんはこんなに気まずそうなんだ・・・?
「明くん、お父さんはね?ちょっと悪い事をしちゃったの、だから気まずそうにしてるの」
「わ、悪い事って・・・?」
「ちょっ、み、
が、父さんは俺の質問を遮るように、母さんの名前を呼んだ。
・・・ん?
「と、父さん?何したんだ?」
「・・・・・・」
父さんは気まずそうな顔をしながら、俺に近づいてくる。
そして、小さな声で言う。
「明・・・大事なことを伝える」
「だ、大事なこと・・・?」
このタイミングで大事なことって、なんだ・・・?
「一時の感情や状況で、人生の大事なことを決めない方が良い、もしそうなったら・・・俺みたいになるぞ」
「お、俺みたいにって・・・どういう事?」
話に脈略が無さすぎて、全く意味がわからない、どういう事だ?
「俺が言いたいのは、将来のことをちゃんと見据えて、冷静に判断しないと大変なことになるってことだ」
「た、大変って・・・」
「明、さっき御子響に聞いた、恋人がいるんだろ?」
「ま、まぁ・・・」
能天気な母さんはともかくとしてほとんど常識人な父さんに彼女がいるんだろと聞かれるとちょっと複雑な心境だな、これが親に恋人がいることを隠したがる子供の気持ちなんだろうか。
「・・・その恋人は──────」
「そーちゃんのお父さん!お久しぶりです!」
「お父様、お久しぶりです」
「─────あぁ、久しぶり、霧響と・・・もしかして、結愛ちゃん!?」
父さんは久しぶりに見た結愛の姿に驚いたらしく、結愛の顔と体を繰り返し見ている。
「ゆ、結愛ちゃん、お、大きく──────」
「お父〜さん♪」
「ひっ」
母さんがいつもの感じで父さんのことを呼ぶも、父さんはなぜか一瞬怯えたような表情を見せた。
そして母さんが父さんに何か耳打ちをしている。
「・・・・・・」
・・・ん?
なぜだか、その光景を見ていると、とても身近なことを思い出した。
「・・・結愛ちゃん、久しぶり」
父さんは母さんに何かを言われた後、落ち着いたような声音で結愛に対応する。
「はい!お久しぶりです!元気にされてましたか?」
「え?う、うん、結愛ちゃんの方こそ──────」
`トンッ`
「っ?」
階段から降りる音が聞こえてくると、父さんは一瞬表情を歪ませた。
「ど、どうしたんだ?父さん」
「い、いや、な、何か今ゾクッとしなかったか?」
「・・・ぞくっ?」
`トンッ`
「あ、あぁ、この音・・・?何言ってるんだ父さん、これは初音が多分階段を降りてきてるんだ」
「初音・・・?その子が明の──────」
「っ!そーくんのお父様っ!」
初音は父さんのことが階段から見えたのか忍者のように階段からジャンプして、すぐに玄関まで来た。
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