第617話霧響と小姫

「あの、少しお時間頂いてもいいでしょうか」


「・・・なに」


 私は私たちだけでなくお兄様にまで口が悪いこの女性に対して少し時間をいただきます。


「なぜあなたはお兄様のことを嫌っているようなのになぜここに宿泊しているのでしょうか」


「・・・別に関係ないでしょ」


「いいえ関係あります、もしここにいる理由が宿がないとのことでしたら金銭はお渡しするので今すぐにでもお兄様から離れてください」


「なんで」


「なんで、とは・・・?話を聞いていなかったのでしょうか」


「そうじゃなくて、なんであんんたにそんなこと言われないといけないわけ?」


「私はお兄様の兄妹なので意見する権利はあると思いますが」


 わざわざこんなことを説明しないといけないとは。


「主語があの子の話ならあの子自身が私に言いにくればいいじゃん」


「お兄様はお優しくてそういったことを直接言うことができないので、私がこうして代弁しに来ています」


「はぁ・・・なんでこんな面倒な奴らとばっかり同棲なんてしてるんだろ、キモすぎだけど妹なら仕方ないかもね」


「っ!待ってください」


 私は今の発言で引っ掛かりを感じたため、一旦話を止めます。


「何?」


「私がお兄様と同棲しているのは、妹だからという理由ではなく愛故です」


「あぁ、家族愛ってやつね、はいはい、それも一緒だって」


「違いますっ!家族愛等ではなく異性としての恋愛です!」


「・・・は?え、異性としての愛って、はぁ?いきなり何言ってんの?」


 この人は何故か不思議そうな顔をします。

 ・・・同じ日本語を使っているはずなのですが、どうしてこうも理解されないのでしょうか。


「言語としてそのままの意味です」


「えっ、ちょ、本当に気持ち悪いんだけど、え、それって兄弟で結婚したいとか思っちゃってってこと?」


「そうですが」


 まぁお兄様と私は生まれながらの家族なので結婚という制度自体必要なものかどうかわかりませんがやはり生まれつきのものなどにあぐらをかきたくありませんからね。


「ねぇ、自分がどれだけ気持ち悪いこと言ってるか理解してないの?キモいよ?」


「気持ち悪いことなど言っていません」


「・・・あっそ、まぁとにかあんたがどう思ってようと私がここにいるのは自由だから」


「・・・・・・」


 お兄様に好意を向けていないという点ではもしかしたら強力な味方になる可能性も一瞬考慮しましたが、このような方だと協力どころか逆にお兄様の私に対する評価を下げてしまう可能性の方が高いですね。

 そう思い、私はこの人のことを一旦頭から消して、次はどうやってお兄様に私との婚約を認めてもらうかを考えることにしました。

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