第607話簡単なトラウマ
「私は絶対に譲らないからね!」
「・・・はぁ〜」
あゆは呆れたようなわかっていたような感じでため息をついた。
俺としては大歓迎だがあゆも流石にあれから1時間も拒絶され続けるだなんて想像もしていなかったんだろう。
「あの、一応聞いておきたいんですけど」
あゆは事務作業とでもいうような声音で言う。
「なにっ!?」
1時間も似たようなことを提案され続けた結愛は少し苛立っている様子だった。
「結愛先輩は先輩と仲の良い幼馴染で我慢するつもりは───────」
「ないに決まってるでしょ!?」
「ですよね〜」
これもまたあゆはわかっていたかのように反応する。
因みに俺は1時間中ずっと目を瞑り続けているがその功績を褒め称えてくれる人は誰もいない。
よく頑張ったな、俺。
「じゃぁ先輩の初めてを奪うのは絶対にダメですけど私と結愛先輩で先輩に簡単なトラウマを植え付けましょう」
「・・・え?」
ここでさっきまで結愛に向いていたはずの矛先が今度は俺に向いた。
「え、ちょ、は!?な、なんでそうなるんだ!?」
「結愛先輩ならわかりますよね〜?」
あゆは結愛にそう目を利かせる。
・・・わかりますよねって、俺にトラウマを植え付けるなんて恐ろしいことわかるわけないだろ!
ましてや相手は基本的には何をするにしても俺に優しくしてくれる結愛だ、そんなことを承諾するはずが無───────
「・・・そうだね」
「・・・は!?な、なんでそうなるだ!?」
俺はずっと閉じていた目を見開いて言う。
「でも、トラウマを与えるのは私だけであなたは別に何もしなくて良いから」
「・・・まっ、そのぐらいは譲ってあげないと結愛先輩が可哀想なので、譲ってあげますよ〜❤︎」
「えっ、えっ・・・?」
俺は困惑する様子を声だけでもわかりやすいぐらいに出している。
すると結愛は無言で俺のことを優しくベッドまで運んだ。
トラウマを植え付けるなんて言われた後にそんな優しくされても不気味なだけだから余計にやめてほしい・・・
「そーちゃん、これはそーちゃんのためでもあるの」
「お、俺のため・・・?」
俺のためと言うのであれば今すぐにでもトラウマを植え付けるなんていう恐ろしいことはやめていただきたい。
「うん」
「・・・ち、因みに、と、トラウマってどういうことなんだ?ま、まさか俺のことを痛めつけたりとか───────」
「そんなことするのはあの虫だけっ!あの女以外は・・・ううん、私だけはそーちゃんにそんな酷いことしないよっ!」
「ゆ、結愛・・・」
あまりにも心のこもった声に、俺は心底感激と安心をした。
良かった・・・これなら俺が思ってるような怖いことはされな───────
「でも・・・ちょっと性的なトラウマを、ね・・・?」
「・・・え?」
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