第595話あゆの情緒

「い、いきなり抱きついてきてどうし───────」


「あぁ❤︎先輩の硬いのが当たって・・・❤︎」


「っ!離れろ!」


 俺は軽くあゆのことを押しのけ───────


`ドンッ`


「・・・え」


 あゆはすごい音を立てて地面に背中をつけた。

 幸いこの部屋は防音になってるから他の人に迷惑になる事は無いけど・・・


「な、何して──────」


「先輩酷いですよ〜!いくら私が先輩の意に反することをしたからって後輩の女の子を力強く押しのけるなんてっ!」


「ち、力強くなんてしてないだろ・・・?」


「わああああん!!痛いです〜!!!!別の形で責任とってください〜!!!!」


 なんていうか・・・当たり屋に当てられてしまったような気分だ。

 でもそんなことを訴えてもどうせ泣き続けられるだけだろうし・・・


「べ、別の形ってなんなんだ?」


 他のことでことが片付くならそのほうが早いし、それを聞いてみよう。


「何って・・・そんなの決まってるじゃないですかぁ♪今日白雪先輩が颯爽と自分の部屋に持ち帰ろうとして結局頑丈な箱の中に封印されたアレですよアレ❤︎」


「・・・な、なんのことだ?」


 とぼけてみるも・・・


「とぼけないでください、先輩の熱くて白いものに決まってるじゃないですか」


 と、そこだけは声音をいつもより低く言ってきたため、あゆの本気さを感じ取ってしまう。


「い、いや、あ、あれはその・・・じ、実は、初音があの袋の中に白の絵の具を入れてたんだ」


「いいえ、あの色は絵の具では出せません」


「そ、そんなこと言われても本当に──────」


「匂いでわかります」


 匂いでわかりますはどう考えてもおかしいだろ!

 ・・・でもそう言えば結愛も匂いで俺のいるところがわかったとか言ってたし・・・もしかすると女性の方が嗅覚が良いのか・・・?

 今後はしっかり匂いとかにも気をつけていかないとな・・・


「わ、わかった・・・ま、まぁ、実はそういうことがあったんだ・・・」


「・・・わかってましたけどね」


 あゆはどこか呆れたような悲しそうな表情で言った。


「とにか〜く!」


「うわっ!」


 あゆは倒れたままの体勢から一転し、俺の胸ぐらを掴むまでは言わないまでも俺の胸元を掴みながら言った。


「白雪先輩に搾り取られた先輩の白いものを私にもくださいっ!」


「搾り取られたって言い方やめろ!」


「え、搾り取られてたじゃないですか」


「うっ・・・」


 いや、まぁ・・・事実搾り取られたみたいな形にはなったけど本意では無いからそう言う言い方はやめて欲───────


`ドンッ`


「・・・え?」


 リビングからテーブルを激しく叩いたような音が聞こえてきた。


「あ〜あー、そろそろ先輩とシようと思ってましたけど・・・」


 落ち込んだように言う。・・・が。


「外で面白いことが起きてるっぽいので見に行きましょうかっ❤︎」


 落ち込んだように見えたのも束の間、一瞬でいつもの調子でスキップをしながら部屋から出て行った。

 ・・・リビングで何が起きてるんだ?

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