第568話珍しい初音

「・・・最悪だ」


 昨日そのまま眠れるかと思ったら初音が思い出したように「あっ!お薬入れてあげないとねっ!」とか言ってあともうちょっとで寝れそうな時に薬を注入されたせいで結局ほとんど眠れなかった・・・

 つまり2日連続でオールナイトした挙句、今日は・・・


「そーくん!あのウイルスとかが起きてないうちに出ちゃうよ!」


 出かける日だ・・・まぁあの時は初音がレンタル彼女の件で怒っててその気を紛らわすためだったから仕方がないとはいえ俺だってまさか二日間薬漬けにされて一睡もできない状態で出かけることになるなんて思ってない。


「今日どこ行くか覚えてるよね?」


「も、もちろん・・・確かボウリング?だったよな・・・」


「うんっ!そうだよ!」


 そのボウリングに行く時決めた時の会話に若干違和感を覚えたのを覚えている。

 もっと近くにボウリングできるところがあるのに、なぜか初音はわざわざ人が多い都会の、しかもここからは少し遠いところを選んだ。

 まぁ、昨日実は寝る前勉強を口実に初音に頼んでスマホを返してもらえたから遠いところを選んでも暇潰しはでき──────


「スマホ貸して?」


「えっ、な、なんで・・・?」


「私とのデート中にスマホなんていらないよね?」


「・・・わかった」


 俺は初音に言われるがままに、初音にスマホを渡した。

 ・・・今ちょうどスマホのことを考えてたのに・・・

 すると初音はそのスマホを自分のカバンにしまった。

 そして道中・・・


「久しぶりのそーくんとのデート楽しみだなぁー」


「・・・そ、そうだな」


 俺は一応合わせておくも、正直早くこの時間が終わってくれと思っている。

 彼女とのデート中にそんなことを考えているなんて不謹慎かもしれないが、こちは薬漬け2日間オールナイトな上毎日のように浮気を疑われ足だってマシになってきたとはいえまだ道具がないとまともには歩けないんだ。

 終わってくれと思ってしまっても悪くはないはずだ。

 俺がそんなことを考えながら初音と一緒に歩くこと数十分・・・今まで初音と付き合ってきて一度も起きたことのないことが起きた。


「あれ?道に迷っちゃったみたい!」


「・・・え?」


 初音が道に迷うなんて・・・今までで初めてだ。

 でも今の時代、道に迷うなんて焦るようなことじゃない。


「俺のスマホでも初音のスマホでもいいからマップを見たらどうだ?」


「・・・あっ、私のスマホ充電無いみたい」


「えぇ・・・」


 本当にこんな初音は珍しいな・・・まぁたまには俺の男らしさというか頼れるところも見せよう。


「じゃあ俺のスマホを出してくれ」


 そう言って初音は俺の言った通り俺のスマホを出すも・・・


「そーくんのスマホも充電無いみたい・・・」


「えっ!?そ、そんなはずない、だって寝てる時ずっと充電してたんだ!」


「でも・・・」


 俺は初音にスマホを渡され、充電ボタンを長押ししてみるも、充電はつかない。


「こ、故障したのか・・・?」


「今度一緒に治しに行こうね❤︎」


「あ、あぁ・・・」


 ・・・え、ど、どうするんだ・・・?

 こんなところ全然知らないし、初音にもわからないなら本当に詰みだ。


「とりあえず歩いてみよ?」


「よ、余計に迷わないか・・・?」


「こういう時は動かないとダメだよっ!」


 俺は初音に背中を押され、歩き始める。

 そしてまたも歩くこと数分・・・


「なっ、ど、どこなんだここ・・・」


 周りにはピンク色の光と、奇抜な格好をした女性と男性がいる。

 朝早くとは思えないほど活発だ。

 ・・・って、ここって──────


「ホテル街、みたいだね・・・」


「ホテル街!?」

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