第541話人権が無い

「か、体を売る!?嘘だろ!?」


「本当に先輩ってチョロいですよね〜、内容も聞かずに契約書に署名しちゃうなんて♪」


「ま、待てっ!こ、これは詐欺──────」


「それに契約書の内容も確認せずにサインするなんて私以外にしたらダメですよ〜?」


「・・・え?」


 あゆは改めて契約書を入れたファイルを取り出して、俺にその契約書の内容を見せてきた。


「ここですよ、ここ❤︎」


 あゆが指さした一文にはこう書かれていた。


『規定時間の間、契約者の人権は依頼者に依存されるものとする』


「・・・え、人権・・・?」


「そうなんですよ〜!だから今先輩は本当の意味で私の物なんで─────」


「じゃ、じゃあお金は貰わないから契約は無効─────」


「あ、ここ見てくださ〜い」


 そう言ってあゆが指さしたところにはこう書かれていた。


『一度署名した場合、契約を破棄することはできない』


「そ、そんな・・・」


「そういうわけです〜!もう、わかりますよね〜?」


 ま、まずい、このままじゃ・・・そ、そうだ!


「ま、待て!確かに契約破棄することはできないのかもしれないけどそもそもこの契約は1億円あってこその話だ、1億円なんて大金あゆが持ってるわけ─────」


「じゃあ1億円あることが確認できたら私に体売るんですね〜?もう先輩に選択肢なんて無いですけどー❤︎」


「っ・・・」


 いやいや、1億円なんて持ってるわけがない。

 確かおばあちゃんが医者とか言ってたけどそれでもあゆ個人で1億円も持ってるとは考えづらい。


「はい、どうぞ〜」


 あゆは俺に通帳を見せてきた。


「・・・・・・」


 俺は恐る恐るそれを見てみると・・・そこにはちょうど1億円の記入がされていた。


「えっ?!」


 な、なんであゆがこんな大金を持ってるんだ!?

 この通帳も間違いなく本物だ・・・


「はぁ❤︎1億円だけで先輩の初めてを貰えるなんて〜!最高です〜!」


「ま、待て!あゆ!」


「もう待つ理由ないですし〜、それに先輩が1時間弱出さなかったら妊娠の可能性はないじゃないですかぁ」


 1時間もなんて・・・無理だろ!

 それにあゆと初めてをするわけには─────・・・いや、でも待てよ・・・そうか、1時間弱か。


「じゃ、じゃあその前にお互いにお風呂には入ったほうが良いと思うんだ」


「私はそのままでも良いですよ〜?」


「あー、いや、お、俺が嫌なんだ、ほ、ほら、初めてはできるだけ大切にしたいだろ?」


「っ!わ、私との初めてを考えてのことなんですかぁ!?じゃあお先にどうぞ〜♪」


「あ、ああ、ありがとう」


 俺は一瞬だけあゆに脱衣所から出てもらい、一旦裸になって腰にタオルを巻いてお風呂場に入った。


「よ、よし・・・!」


 あとはこのまま1時間弱お風呂に籠れば・・・!

 あゆには悪いけど、俺はあゆと初めてなんてするわけにはいかない。

 確かに契約書を読まなかった俺も悪いけど、あんな半分詐欺みたいな押し売りをされたんだ、許してくれるだろう。

 後でお金を貰わなかったら、お互いにプラマイゼロで何も無かったことにできる!

 この1時間だ、この1時間どうにかして俺の貞操を守り切らなければ─────


「せんぱ〜い!お背中お流ししま〜す!」


 と、バスタオルを巻いたあゆが手を振りながらお風呂場に入ってきた。

 ・・・えっ。

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