第538話天銀は恋を知りたい

「うっ・・・ぁぁ」


 俺は最後に早姫という名の連絡先を削除され、あの地獄から解放された。


「・・・本当に地獄だった」


 可愛い彼女と長い間キスをする。

 なるほど、それだけ聞けば聞こえが良い。

 だが実際は抵抗することも許されず、俺の意思で何かをすることもできず、ただただ初音に唇と口の中を弄ばれるというキスだ。

 それを可愛い彼女と長い間キスをするなんていう綺麗な表現で収めて良いのか・・・?


「良いわけがない!」


 やっぱり初音にはどうにかして普通の恋愛というものを覚えてもらわないと困るな。

 あゆはよく普通の恋愛がしたいとか言ってるけど俺から見ればあゆも十分普通じゃないため、参考にはならない。


「・・・ん」


 天銀がリビング奥のテラスの縁に腕を置いてすごく絵になりそうな感じで外を眺めている。

 ・・・天銀にどうすれば初音と普通の恋愛ができるのか聞いてみるのもありかもしれない。


「なぁ天銀─────」


「最王子くん、恋とはなんでしょうか」


「・・・は」


 俺は天銀からは絶対に出てこなさそうなワードを聞いて、少し驚いてしまった。


「え、いや、さ、さあ・・・」


 むしろ俺が聞きたいなんてことは言えないな・・・


「・・・最王子くんと白雪さんはどうやって恋人になったんですか?」


「・・・え?え、えーっと・・・」


 初音の顔が怖くて逃げようとしたら捕まって包丁向けられて拘束されて付き合いました殺されたくなかったので付き合ったのが始まりだなんて言いたくないな・・・


「初音から告白されたんだ」


「なるほど、それで承諾したという訳ですね」


「そうだ」


 多分天銀の思ってる過程とはだいぶ違うだろうけど、特に説明する必要もないのでそこは省かせてもらおう。


「・・・例えばですが、仮に僕が最王子くんに告白していたら承諾していましたか?」


「・・・は!?な、何言ってるんだ!?」


「例え話ですよ」


 と、天銀は小さく笑った。

 ・・・申し訳ないけど天銀に告白されるなんて例え話だったとしても全く想像できない。

 っていうか良い意味で天銀が恋愛してるところが想像できない・・・

 いや、良い意味でってよくわからないけど、天銀が恋愛してるところは本当に想像できないな。


「わからないな、告白とかはその時々になってみないとわからないものがある」


 そんなことをカッコつけて言っては見てるが、俺は今まで普通の告白というものをされたことがないため、あまり参考にはならないかもしれない。

 でもやっぱり告白の空気感というものが存在することは確かだ。


「そうですよね・・・僕は今まで恋なんていう感情とは無縁だったのでその感覚はわからないです」


「そ、そうか」


 まぁもし子供の時から男装してたんだとしたらそれはモテるわけもない・・・いや、もしかしたら天銀が気づいてないだけで陰ではモテてたのかもしれないな。


「最王子くん」


「ん?」


「・・・いえ、なんでもないです」


 天銀は潮らしい感じでテラスから出て行った。

 ・・・天銀も色々と悩んでいることがわかった。

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