第492話霧響の逆鱗

「・・・お兄様、洗濯をしたいので脱いでください」


「・・・え?」


 てっきり妹扱いしたことを怒られると思ってたけど怒られないのか・・・?


「い、いきなりなんでだ?」


「洗濯をするのに理由が必要ですか?」


「・・・わ、わかった、じゃあちょっとお風呂で脱いでく────」


「私妹ですのでお兄様が目の前でお着替えをしていても何も気になりませんしお兄様も気になりませんよね」


 と、霧響は皮肉を言うように言った。

 ・・・怒らないと思ったらそう言うことか・・・妹扱いされてるのをむしろ利用しようとしてるな、でもそうはいかない。


「いや、もし霧響が弟なら気にならなかったけど妹で一応異性だから思春期の俺にはちょっと色々と思うことがあるんだ」


「思春期?妹に欲情するのが思春期なのでしょうか」


「よ、欲情っていうか単純に裸を見られるのが恥ずかしいんだ」


「そうですか、では私が脱ぐことにします」


「な、なんでそうなるんだ!?」


「私が裸になりたい気分だからです」


 言ってることがめちゃくちゃだ・・・


「そ、そんなの俺の前ですることじゃないだろ?」


「あれ、妹に欲情はしないのであれば私が裸になっても問題はないはずですよね?」


 ・・・これはもう完全にキてるな。

 多分怒りすぎて一線を超えて逆に冷静になってしまってるっていう一番怖いパターンのやつだ。

 その証拠に目が虎視眈々としてる・・・


「そ、そういう問題じゃ────」


「では脱ぎますね」


 そう言って本当に服を脱ごうとしている霧響の手を俺は手で止める。


「ま、待て待て、妹扱いしたのは悪かったから、勘弁してくれ」


「勘弁してくれとおっしゃるのであればお兄様が脱いでください、今素直に脱いでくださるのであれば特に何もしません、少し観察するだけです」


「観察って・・・」


 それが単純に相手が妹でも妹じゃなくても恥ずかしい行為だってことを霧響ほどの頭脳があってどうしてわからないんだろうか。


「お兄様、お早く」


「・・・ほ、本当に脱ぐのか?」


「はい」


「・・・子供の頃のをイメージして言ってるならやめといた方がいい、今の俺のを見たらもしかしたらトラウマになるかもしれない」


 ・・・正直に言うと子供の時よりはもちろん俺のも大人にはなったと思うけどグロいのかと言われれば答えは間違いなくノーだ。

 その証拠に初音が初めて俺のを見た時の咄嗟の感想は「可愛い」だったことを俺は忘れていない。


「構いません、お兄様の物であれば全てが愛おしいです」


「い、いや、俺は霧響にそんなトラウマを持って欲しくないんだ、将来霧響が誰かと結婚した時とかにそのトラウマがフラッシュバックしたりして─────」


「誰かと、結婚・・・?」


 さっきまで怒りを超えて冷静になっていたはずの霧響の声が震え出した。


「そっ、それはお兄様以外の誰かと私が結婚した場合、ということでしょうか・・・」


「えっ、あっ、いや、例えだから────」


「例えでもそんなこと絶対有り得ないですからそんなことおっしゃらないでくださいっ!」


`ドンッ`


 普段物に当たったりしない霧響が珍しく手でテーブルを激しく叩いた。

 これは・・・やってしまったかもしれない。

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