第487話総明は喘いでいた

「・・・・・・」


 俺はキスをした瞬間に、すぐに唇を離した。


「さ、さあ約束だ!音声を消してくれ!」


「お兄様ぁ、素敵でしたぁ・・・欲を言えばもう少し長くキスをしていたかったですが、約束は約束ですから、音声は記憶の中だけに留めておきますね・・・それに、将来的には加工なんてしなくてもあの音声以上のことをお兄様としますから・・・❤︎はぁ、お兄様ぁ・・・」


「・・・・・・」


 な、何がともあれとりあえずこれで音声を使って脅されることは無くなったな。

 ・・・ただ、なんていうか・・・


「はぁ❤︎」


 こんな蕩けた霧響の顔を見たくなかったというのは少しだけある・・・

 いやいや、忘れよう、これは仕方ないことだったんだ。


「せんぱぁい❤︎大変でしたぁ〜?」


「っ!誰のせいだと思ってるんだ!」


 もはや後ろからでも誰の声かわかる声に、俺は怒りを露わにして言った。


「えぇ〜、そんな怒らないでくださいよ〜、先輩が私にちょっと弄られただけで声あげちゃったせいじゃないですかぁ〜」


「ちょっとって・・・!あんなにされて声あげない方がおかし─────」


「じゃぁ〜、またして欲しいですかぁ〜?」


 あゆはそう言って俺の肩から胸元にかけて人差し指でなぞった。


「して欲しくない!2度とごめんだ!」


「またまたぁ〜、あんなに喘いでたじゃないですかぁ〜」


「喘いでない!」


 このままだとまたあゆのペースに飲み込まれ────


「そーくん、喘いでたって、何?」


「えっ・・・」


 俺の部屋から出てきた初音が俺の目を捉えながら言う。


「え、いや、その・・・あ、あの時だ、あの、俺があゆにあゆの家に連れ込まれた時の・・・」


「・・・そーくん、あの時出してないって言ってたよね?」


「だ、出してはない!本当だ!」


「・・・私に聞かせたことないぐらい喘いだりしたの?」


 ・・・なんでこんなことを恋人に聞かれないといけないんだ・・・いや、恋人以外に聞かれるっていうのもそれはそれでおかしな話なんだけど・・・


「いやいや!そ、そんなことない!」


「・・・そーくん、ちょっとこっち来よっか」


 そう言って初音は俺の腕を引っ張って俺のことを俺の部屋に連れて行こうとしたが、あゆの言葉が初音の足を止めた。


「ちょっと〜私の方が白雪先輩よりテクニックが上手くて先輩が喘いじゃったからって嫉妬しないでくださいよ〜」


「・・・は?」


 初音は俺の腕を掴んだまま、あゆの方に振り返った。


「だってそう言うことじゃないですかぁ〜、まぁ、白雪先輩より私の方が先輩のアレを長く触りましたし〜?仕方ないかもですね〜」


「・・・え?そーくん?」


「・・・・・・」


 俺は初音から顔を逸らす。・・・確かに時間だけで言えばあゆのほうが長かった・・・でもそんなことを直接口でなんて言えるわけがない。


「なんで顔を逸らすの?もし今この女が言ったことが本当なら1那由多歩譲って無理やり連れ込まれて身動き取れなくされて無理やり触られたって言うのは仕方ないとしても、それを私に隠してたのは処罰対象だよね?」


「え、あー、いや・・・」


 1那由多歩譲ってって・・・それ譲ってるのか?


「そ、そうだ!は、初音には初音との思い出だけを共有したかった────」


「だとしても、隠して良いことと悪いことがあるよね?そーくんが隠してたのは悪いことだよ?」


「・・・はい」


「じゃあ、わかってるよね」


 そう言って初音は俺の腕を離して俺の部屋に入った。

 ・・・俺に謝る気があるなら自分で入って来いってことだろうな・・・

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