第474話初音と結愛の奪い合い
「やっぱりそーくんはあそこのウイルスと違って私のことよくわかってくれてるね❤︎」
「あ、はは・・・」
「ウイルス・・・?」
結愛はさっきまで「いつまで来て!」みたいな感じの体勢だったが、今起き上がって俺と腕を絡めている初音の方に向き直り、言う。
「私からしたらウイルスはそっちなんだけど」
「ふふっ、そーくぅんっ♪」
初音は結愛の言葉なんて聞こえていないかのように俺の指に自分の指を絡めて毛先で遊ぶような感じで弄っている。
「私がお花見でそーちゃんと運命の再会をしたら私が知らない間にそーちゃんは虫に寄生されてて・・・」
「あっ!そーくんの甲はやっぱりちょっと男の子なだけあって私より硬いね♪かっこいいなぁ」
「しかもその虫に洗脳までされて・・・」
「はぁ、本当にそーくんを自由にできるそーくんが羨ましいなぁ」
「虫さえいなかったら今頃私とそーちゃんは2人で幸せになってたのにっ!」
結愛はそう言いながら自分の指と俺の指を絡めている初音の手を無理やり俺の手から引き剥がした。
「・・・ねぇ、邪魔なんだけど」
「・・・邪魔はそっち」
「私今そーくんといちゃいちゃしてたよね?見てわからなかったの?」
いちゃいちゃはしてなかったけどそこは触れないでおこう。
「虫が勝手にそーちゃんに集ってるようにしか見えなかったけど?」
言い方は悪すぎるけどまあその通りだ。
「は?どこからどう見ても私とそーくんはラブラブでしょ?」
「全然、私の方がそーちゃんとラブラブだもん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人は一瞬沈黙した後────初音が俺の左腕を、結愛が俺の右腕を力強く引っ張った。ま、待てっ!う、腕がぁ・・・
「そーくんは私のー!」
「そーちゃんは私のだからー!」
「ま、待てっ!う、腕が、や、やばいから、ほ、本当に落ち着いてくれ!」
そう嘆いては見るものの、これが愛の力だとでも言うのか一向に2人の力が抜かれる気配はしない。
「な、何してるんですか?」
「っ・・・?」
ドアが既に初音によって破られていたため、音もなく部屋に入ってきたのは天銀だった。
「あ、天銀、助けてくれ!」
「わ、わかりました!」
天銀がこちらに向かって助けようとしてくれる姿勢は見せてくれたが、ここで天銀の手が止まった。そしてその考えが俺にも手にとるようにわかった、というより今俺も思ったことだ。───どっちを引き剥がすべきか、と。
初音と結愛、両方を同時に引き剥がそうとしてもきっと気休めにもならないだろう。どちらか1人に集中しなければならない────が、片方を残せば片方が俺を抱き寄せることになる。
そうなればそれはそれで後々面倒になることは目に見えてしまっている。
「・・・白雪さん、桃雫さん」
ここで考えの結果に至ったのか、天銀がようやく口を開いた。
「そーくんの腕・・・か、かっこいい・・・」
「そーちゃんの腕・・・か、可愛い・・・」
もはや自分の世界に入ってしまっている2人を口だけでどうするのか・・・
「実はこの前体育の時間の時に、いつ返そうか迷っていた最王子くんのタオルがあります」
「「────っ!?」」
それを聞いた瞬間、初音と結愛がギロりと天銀が持っているタオルを見た。確かに俺がこの前使ったタオルだ・・・いや、返す機会なんていくらでもあっただろ、っていうか今言ったんなら今返せ!
「しかしこれは数日前のものであまり最王子くんはタオルを使っていなかったのでそこまででは無いのですが少し汗の匂いもします」
「あ、汗・・・そ、そーくんの・・・はぁ、はぁ・・・」
「そーちゃんの汗・・・匂いたい・・・」
2人の意識は完全に俺が汗を拭いたタオルのほうに行ったのか、俺の腕を引っ張る腕の力は俺でも振り切れるほどに落ちていた。
が、一応まだ振り切らない。変に抵抗すると後で「なんで振り解いたの?」みたいなことを言われるとまたトラブルを呼ぶことになるからだ。
「ですのでこのタオルが欲しければ最王子くんもお腹を空いているという顔をしているので大人しく引いてください」
「わ、わかったからぁ、は、早く、はぁ、そのタオル・・・ちょうだい!」
「タオル・・・そーちゃんの汗を拭いた・・・っ!私があのタオルもらうの!」
「は?私に決まってるでしょ?」
「・・・・・・」
そこからはもう見慣れた光景で、2人が延々と続くであろう口論が始まった。
・・・こうして俺は2人の対象から一時的に逃れることができ、洗面所で顔を洗ってから朝食を食べにリビングに向かうことにした。
とりあえず天銀には感謝もあるけど色々と思うところもあるので後で諸々込みで色々言っておこう。
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