第469話霧響からの要求

「別れるつもりはない!」


「またまたぁ〜」


 大体何さらっと流してるんだ・・・音声だけでよかったと思うことにしたはしたけど、だからってそんなものを妹に渡されるのを看過した覚えはない。


「またまたぁ〜、じゃない!それより─────」


「お兄様」


「ひっ・・・」


 テラスにいたらしき霧響がテラスから出てきて、俺の目の前に立ち凍るような声で俺のことを呼んだ。


「ど、どうした・・・?霧響・・・」


「・・・言わないとわかりませんか?」


「い、いや!わかる、わかるから、その・・・怒らないでくれ・・・?」


「・・・・・・」


「あっ、これは私いらないやつですね〜♪」


「お、おい!」


 あゆはそう言ってリビングを後にした。・・・こうなった原因がいらないわけがないだろ!くっ・・・まずいことになった。


「お兄様私と少しお話をしましょう」


「・・・わ、わかった」


 霧響はさっきまであゆが座っていたところに座り、俺に向き直った。


「・・・音声だけですが聞かせていただきました」


「・・・・・・」


「お兄様は震える声であゆさんの名前を呼んでは大きな息を吐いていて、呼吸が乱れていました、気持ち良さそうに」


 ・・・待てよ?そうか、霧響が知ってるのは音声だけだ、ならいくらでも誤魔化しようはあるはず・・・


「そ、それは実はあゆに包丁を向けられてたんだ」


 あゆのイメージダウンになるかもしれないけど知ったことじゃない、あんな目に遭わされたんだ、こっちだってちょっとぐらいやり返さないと不公平というものだ。


「・・・その割には随分と気持ちよさそうなお声を出しておられましたが包丁を向けられて興奮する趣味でもお有りなのですか?あるのであれば私がいつでも包丁を─────」


「わ、悪い、嘘だ、冗談だ、忘れてくれ・・・」


 後輩に性的な意味で弄ばれていたというのと包丁を向けられて興奮する変態というののどっちが嫌なのかはかなり際どいラインだが、ちょっとだけ包丁を向けられて興奮するという方が嫌という方が勝ってしまったな・・・


「では、あゆさんと性的なことをしていたと認めるということでよろしいですか?」


「そ、それは違う!性的なことをしていたんじゃなくてされてたんだ、それだけは本当だ、信じてくれ」


「・・・私以外の女性とこんなことをしていたなんて、正直言って最低です」


「さ、最低・・・?」


「お兄様の性欲を管理するのが私の務めの一つですが、それを果たせなかった私が最低です・・・」


 俺じゃなくて自分自身を最低だって言ってるのか・・・それはそれで兄としてなんか聞きたくないな。


「・・・ですが、私は寛容的なので、お兄様があゆさんに手玉に取られてしまったことも、私がお兄様を管理できなかったことも許します」


「そ、そうか・・・」


 何がともあれ、霧響もやっぱり優しい一面が─────


「なので・・・『き、霧響・・・!ぅっ・・・で、出る・・・や、やめっ』という風に、あゆさんの名前を呼んでいるところを私の名前に変えさせていただきました」


「・・・えっ」


「お兄様、これを白雪さんに見られたくなければ私との婚約を認めてください」

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