第457話あゆの耳打ち

「ま、待て待て!だからそういうことは────」


「子供はいらないので単純にお兄様を気持ちよくして差し上げたいのです」


「いや、でも────」


「お兄様が嫌だとおしゃっても、お兄様は今抵抗できないので逆に考えれば嫌がってるお兄様を・・・ふふ」


 霧響は妖しい笑みを浮かべた。・・・妹のこんな顔は見たくなかった。


「そんなに心配なさらなくても・・・ただお兄様を気持ちよくするだけですから、むしろリラックスしてみては?」


 そう言いながら霧響は俺の上半身を脱がせた。


「はぁ・・・❤︎」


 霧響は艶のあるため息をすると、冷たい手のひらで俺の上半身を触った。


「ぁっ・・・」


 あまりの冷たさに一瞬変な声が出てしまう。


「はぁ、はぁ・・・そんなお可愛いお声を出されては・・・もう我慢というものができませ─────」


「妹ちゃん」


「なんですか?まだ何か────」


 あゆが霧響に超速で近づき、俺には聞こえないぐらいの声で霧響の耳元に何かをささやいた。


「────っ、本当ですか?」


「うん、でもここで先輩を許してあげるならね?」


「・・・嘘だったらわかってますよね?」


「もちろんっ!嘘なんかつかないって〜」


「・・・わかりました」


 霧響は納得したのか、俺に言った。


「この方に免じてお兄様を許しますが、次私に逆らおうとしたら今度こそはお兄様に罰を与えるのでそのつもりでいてください」


「・・・え?あ、ああ」


 霧響は俺の手を拘束していた縄を解いた。・・・何がどうなってるんだ?


「ではあゆさん、例のものはいつ?」


「明日あげるからそんなに焦っちゃダメだよ〜」


 2人は何かぶつぶつ話しながら、俺の部屋から出ていった。・・・何がなんだかわからないけど、あゆに助けられた・・・のか?


「・・・後で一応お礼を言っとかないとな」


 俺は霧響に脱がされた上着を着直して、霧響たちと少し間隔を空けて部屋から出て、リビングに出るとそこでは────


「そーちゃんの足は私の足で動かないのっ!」


「違うって!そーくんの足は私がそーくんを抱えてて怪我したんだから私のせいでそーくんの足は動かなくなってるのっ!」


「・・・へ?」


 リビングに行くとそこではまだ初音と結愛が言い争っていた。・・・どうなってるんだ?さっきはどっちが俺を怪我させたのかで責任の押し付け合いをしてたのに、今度は自分が怪我をさせたと言い張り合ってる・・・?意味がわからない。


「─────あっ!そーちゃん!そーちゃんの足って私のせいで動かないんだよね?」


「え?どういう話の流れ─────」


「違うよねそーくん、そーくんの足は私のせいで動かないんだよね?」


 本当にどうなってるんだ?


「だから違うって!そーちゃんは私のせいで足が動かないのっ!そーちゃんは今怪我を通して私を感じてるのっ!虫なんかにそーちゃんが怪我させられるわけないでしょ?」


「そーくんは私のせいで足が動かないんだって!私が怪我をさせちゃったからそーくんは今も苦しんでるんだって!」


「・・・・・・」


 なんか意味不明だったけど段々と理解できてきた気がする。

 常識的に考えておかしい話し合いだけど、俺だって伊達に初音と一年近く過ごしてない。大体わかった。

 俺を怪我させたのはどちらで、俺にどちらが大きな影響を与えているのかということで言い争ってるんだ・・・ここまで分かってしまうようになったということは、転校してきたときの俺と比べたらもう俺はだいぶおかしくなってるんだろうな・・・それは考えるのはやめておこう。

 ・・・本当になんなんだこの言い争いは。

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