第449話霧響に反抗

「えーっと・・・は?」


 いきなり何を言ってるんだ?話の展開がわからない。


「お兄様もその足じゃ何かと苦労することも多いと思います」


「いや、最近は車椅子にも慣れてきてだいぶ楽に─────」


「苦労することも多いと思います」


「・・・そうだな」


 霧響の謎に圧にやられてしまい、一旦その流れに身を寄せることにする。・・・が、俺は直後自分が愚かだったことに気づく。

 何が一旦だ!今までそうやって永遠に流れに飲み込まれてきたのを忘れたのか俺!数秒前の自分を説教したい・・・

 だが!そのことに気づけたからにはすぐにでもこの流れを断ち切らせてもらう。


「ですからお兄様とこの部屋で共に生活を────」


「確かに苦労することもあるけど逆に今まで見えてこなかったものが見えたりもしていいこともある、何も悪いことばかりじゃな────」


「人間はどんな環境にでも7日間で慣れてしまうと言います、つまり人間は適応能力が高いんです」


「・・・それが?」


「どれだけ最悪な環境下でも`慣れてしまえる`と言うことです、なので今現在お兄様はきっと足が動かないことに想像以上のストレスを有しているはずですが人間の適応能力のせいでそれにすら慣れてしまってるんです・・・あぁ、本当に可哀想なお兄様」


「・・・・・・」


 価値観を完全に否定された挙句、妹に憐れまれてしまった・・・情けない。


「では先程の続きを話しますが私とお兄様が共に同じ空間で生活をすることでお兄様の負担を削減────」


 だが俺だってまだまだそんな簡単に話を持って行かれたりはしない。

 さっきあゆにちょろいとか言われてちょっとむかついてるって言うのもあるからな、ここでしっかり俺がちょろくないことを証明する!


「1人の空間だと特に何も気を遣わなくていいからストレスとかが少な────」


「私と居てストレスがある、と?」


 霧響が今にも怒りそうな声で言った。


「あー、んー、き、霧響と居てって言うか・・・や、やっぱり1人の方が気楽で良い─────」


「今日のお兄様はやけに反抗的ですね、1ヶ月間で私に管理されてた時のことまで忘れてしまったんですね」


 そう言って霧響は立ち上がり、俺のことを容赦無くベッドに押し倒した。

 18禁なことをしようとしてる気配は無いけど、それより危ない感じがする。


「お、おい、霧響・・・?」


「・・・・・・」


 霧響は問答無用で俺の両手に縄を鉄と錯覚してしまうぐらい硬くなるまで縛った。・・・ちょっと痛い。


「今のお兄様は幸い、足は動かないとのことでしたのでこれでいいですね」


 霧響はそう言い残し、一度俺の部屋から出ると水分と食パンを持ってこの部屋に戻ってきて────鍵を閉めた。


「これで正真正銘、この空間には私とお兄様しか入れません」


「・・・え、えーっと、霧響・・・?」


 俺は嫌な予感がして、霧響を機嫌を伺うように霧響の名前を呼んだ。


「これからお兄様が`反抗してごめんなさい`と言うまで水分と食料を渡しません」


「・・・えっ?」


「お兄様が悪いんですよ?私は善意で言っているのにそれを無碍にして反抗しようとしたんですから・・・当然です」


 ・・・これは・・・2ヶ月ぐらい前にも似たような経験をしたな。

 確か初音が俺を地下に監禁して俺に水を全く飲ませなかったんだ。

 そして俺は、もし次にそう言う状況になったらどうするかをすでにその後考えていた。それは─────


「反抗してごめんなさい」


 ────プライドなんて捨ててしまうことだ。

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