第394話久しぶりの月愛との談笑
その後は特に何事もなくあゆがそのまま俺のことを教室の前まで運んでくれて、俺は教室の中に入っていつもと変わらない教室を見ていた。
「・・・まだ噂は広まってないけど多分すぐ広まるだろうなぁ・・・」
本当に厄介なことになった。学校の人たちは快く二股でも受け入れてくれるかもしれないけど、問題は初音だ。こんなの初音にどう説明すればいいんだ・・・
一応あゆが教室までの道中で「白雪先輩は先輩が学校にいるなんて思わないでしょうから多分当分は大丈夫ですよ、何かあっても私が匿ってあげますから」って言ってたけど・・・それにだって限度がある。本当にどうにかしないと。
「浮かない顔をして、どうしたの?」
こ、この声は・・・!俺はすぐにその声の方向に振り向いた。
「つ、月愛!久しぶりだ!」
「全くね、両足がちょっと折れたぐらいで休むなんて」
「両足が折れて休むのは別に良いだろ!」
「ま、別にそんなことはどうでも良いのだけれど、そんなことより」
どうでも良いのか・・・ちょっと心配とかを期待してたんだけどな・・・まあ、月愛の性格上そういうことは言わないか。
「この前出たばかりのライトノベルの『死ぬ君は明日生きる』読んだかしら?」
「あー!読んだ!」
ちょっと前に初音がいないからと言ってその間に読んだ作品の一つだ。
「あの死ぬ時のセリフかっこいいよなー」
「そうかしら、私としてはちょっと子供染みていて────」
俺と月愛は久しぶりにライトノベルの話で盛り上がった。趣味を共有できる友達っていうのは本当に素晴らしいものだ。
「そういえばガーゼを持ってきてたんだったわ、あなたにあげる」
「ガーゼ・・・?なんでガーゼなんて持ってきたんだ?」
「たまたまよ」
そう言って俺にガーゼを渡した。仮に俺のために買ってくれたんだとしても今日俺が来るなんてわからなかったはず・・・だとしたら俺が休んでいた期間ずっと持ってきていたってことか?
「・・・ありがとう」
俺はお礼だけを言ってそのガーゼを受け取った。そしてまたラノベの話をしようとした矢先────
「最王子!公認二股カップルおめでとう!!」
「・・・公認、二股カップル・・・?あなた何を言ってるの?」
いきなり男子生徒が話しかけてきて、月愛はその男子生徒が何を言ってるのかわからない様子だ。
「おっ!黒ノ宮も入るのか?なら三股だな!はっはっは!!」
「気持ちの悪いことを言わないでもらえるかしら、私は三股なんて許さないわ」
「いや!そこは俺と付き合う気なんてないが正解だろ!」
いや、これが普通の回答なのか?やばい、俺が普通からずれてきてる気がする。
「・・・確かにそうね、私はなんでそこを否定しなかったのかしら・・・」
月愛はしばらく黙り込んだ。・・・そんな深く考えるようなことじゃないだろ!やがて口を開くと、男子生徒に質問した。
「それで、公認二股?カップル・・・とはなんのかしら?」
「え?知らないのか?そこの最王子が白雪さんとあの早乙女財閥の娘の早乙女あゆと二股してるんだって」
「・・・ん?」
聞き慣れない単語が出たため、俺は少し疑問に思う。早乙女財閥ってなんだ?その娘の・・・あゆ?意味がわからない。
「あ、あなた公認で二股なんてしてるの?」
月愛からそんな疑問が出てきた。
「いや、これには止むに止まれぬ事情があってだな・・・」
「・・・まあ、私には関係ないわ、それより話の続きをしましょう」
月愛はいつもの様子でラノベの話を続けようと言った。
「それだけかよー、リアクション薄くね?」
「他人の恋愛事情なんて、他人が触れることじゃないわ」
「チェッー、見た目だけなら白雪さんにちょっと劣るか同等ぐらいなのに、もったいねえな〜」
そう言ってその男子生徒はどこかに去っていってしまった。
「月愛・・・さっきのって・・・」
「ライトノベルから切り取ったセリフだけれど、私の本心よ」
ここぞとばかりにラノベのセリフを切り抜くとは・・・リスペクトだな。
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