第390話あゆの煽り
「・・・あっ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
そう言ってあゆは何かを思い出したように言い、それを止める権利どころか止めることすらできないので、俺はそれを聞き流した。
すると、あゆは液体の入った見慣れないフラスコのようなものを手に取り、それに貼ってあるラベルを見て言った。
「・・・先輩ごめんなさい」
「な、何がだ?」
謝られる節しかないけど、一応何に対して謝っているのかを聞いてみた。
「私的には先輩には普通に即効性の睡眠薬を注入したつもりだったんですけど〜、間違えて副作用に筋弛緩があるやつを入れちゃったみたいです」
「筋、弛緩?」
名前だけは聞いたことあるような内容なな感じのやつだ。
「そ、それになるとどうなるんだ?」
俺は恐る恐る聞くと、あゆは即答した。
「簡単に言うと筋肉に力が伝わりにくくなります」
「・・・え!?・・・いや、え!?」
筋肉に力が伝わりにくくなるって・・・現実にそんな薬、ありそうだけど俺には一生関係がないものだと思ってたのに。
「でも、そうなると一つ疑問なのはなぜ先輩が前に私を引き剥がさなかったのかなんですよね〜、筋弛緩状態って言うのもさっきのことですし〜?前の夜ならそんな状態でもなかったと思うんですよ〜」
「それはあゆがすごすぎるだけだ、俺は力を込めてた」
「・・・先輩、本当に性別間違えてませんかぁ?白雪先輩と結愛先輩と後輩の私にまで負けるなんて、筋トレとかした方がいいですよ〜?なぁんて、冗談ですよ〜、恋する乙女は強くなりますからね♪」
恋する乙女・・・か。その恋の方向性がもっと融通が聞けばどれだけ良かっただろう。感情はそんなに簡単なものじゃないか。
「それに比べて先輩はヘタレですからね〜」
「なっ・・・」
ここであゆがまたも俺のことを挑発してくる。初音とか結愛の同級生に言われるならちょっと納得して引き下がれるけど、俺にだってプライドはある。後輩の女子にここまで好き勝手言われるのはいい気がしない。
「だってそうじゃないですかぁ〜、現に今私にこうして挑発されても何もできないわけですし〜?」
「こんな拘束具があったら何もできない!」
俺がそう言うと、あゆは俺の左手の拘束も解除した。これで俺は足は動かないけど、一応自由の身となった。
「これで拘束なくなりましたけど、何かできるなら見せてくださいよ〜、ほら〜、早く〜、それとも先輩はやっぱりヘタレなんですかぁ〜?」
「くっ・・・黙って聞いてれば・・・!」
俺はこの前あゆに物理的に痛い思いをさせられ、さらに挑発されたことをも思い出し、そろそろ本当に我慢の限界が来ていた。別に年下だから年上を敬えなんて言わないけどそれにしたって俺は舐められすぎだと思い、あゆが一番嫌がることを必死に考えた結果、一つの結論に辿り着いた。
「あゆ〜!」
俺はそう叫びながら────自分の顔を殴った。
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